極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

「あのう、どうぞ中へ。座ってお話しましょう」

 父が言うと、母が弾かれたように立ちあがった。

 来客用スリッパを出された裕ちゃんは、うなずいて家に上がってくる。

 私は駆け出した母を追いかけ、逃げるようにキッチンへ。

 母は家の中で一番上等な緑茶の筒を取りだしていた。

「どうしよう、お母さん」

「冷静に話し合うのよ。冷静に」

 と言いながら、母の手はぶるぶると震えていた。

 どうしても、裕ちゃんと羅良の結婚がどうなるかより、会社の行く末が気になってしまうのだろう。

 お盆にお茶を載せた母の後ろをついていき、客間へ。

 ドアを開けると、父と裕ちゃんが座っていた。

「どうぞ……」

 お茶とお菓子を出し、母が父の隣に座る。

「おかまいなく。希樹、お前がいないと話にならない。ここへ来てくれ」

 両親が懇願するような視線で、ドアのところからひょっこりしている私を見つめる。

 ついに、この偽装結婚が終わるときが来た。

 長方形のテーブルの、お誕生日席に裕ちゃん。

 左側に両親、右側に私がちょこんと座る。

「希樹さんからどこまで聞かれましたか」

 裕ちゃんに尋ねられ、口ごもる両親の代わりに、私が話す。

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