極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
「話にならないわ」
義両親は静かに消えていく。父の怒りの矛先は、裕ちゃんに向いた。
「お前も、帰れっ。被害者面して希樹を人質にして、いったいどんなひどいことをしたんだ。え?」
「お父さん、やめてっ」
「昨日の姿を見ればわかる。泣きはらした娘の顔が、どれだけ親の心を痛めるか、お前にわかるか! 帰れ!」
どんなに怒鳴られても、裕ちゃんは顔色を変えなかった。
ただひたすら、父の怒りを全身で受け止めていた。
「……今日のところは、失礼します」
一通りの暴言を受けたあと、裕ちゃんはくるりと踵を返し、家を出ていく。
「裕ちゃん」
思わず声をかけると、彼は微かに振り向いた。
「また連絡するよ」
低い声に、胸が痛くなる。
バタンとドアが閉まったあと、父がキッチンから塩が入った容器を持ってきて、玄関にぶちまけた。
「二度と来るなっ」
気が済んだのか、ドスドスと廊下を踏み鳴らし、奥に入っていく。
「羅良、大丈夫? とにかく休んでいきなよ。彼氏に連絡してからでもいいから」
私が声をかけると、羅良はやっと顔を上げた。
「巻き込んでごめんね、希樹……」
私や両親が受けた以上の暴言を、彼女は連行される間、受け続けたのだろう。
体に傷はなかったけど、顔が五歳くらい老け込んでみえるほど、羅良は疲れているようだった。
「お父さん、これ、砂糖よ……」
母の消え入るような声が、脱力感を誘った。