極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
リビングのソファに座る羅良に、コーヒーを淹れて出した。
母は玄関の掃除中だ。
「ありがとう」
羅良は小さな声でお礼を言い、ゆっくり口をつけた。
父は自室にこもってしまって、出てこない。
「お父さん、私たちのために怒ってくれたね」
「うん」
自分が父の立場を窮地に追いやってしまった自覚があるのだろう。
羅良は痛みを堪えるように、苦笑した。けど私から見たら全然笑えていない。苦笑寸前といった表情だ。
「私のせいで、希樹までひどいこと言われちゃった」
「別に、そんなのいいよ。羅良だって、わざわざ捕獲されてここまで連れてこられて、怖かったでしょ」
「びっくりしたよ。チャイムが鳴って出たら、いきなり拉致されたんだもん」
いや、逃亡中のくせに、相手の確認をせずに出ちゃダメでしょ。どれだけ迂闊なの。
ツッコミたかったけど、やめた。
あの古いアパートには、せいぜいのぞき穴くらいしか付いていなかったのだろう。
「ばれちゃったけど、どうする?」
聞くと、羅良は「彼の元に帰る」ときっぱり言った。
その意志は、揺らぐことがないらしい。
こんなに強く、傍にいたいと思えるくらい愛する人か……。