極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

 一瞬、裕ちゃんの顔が浮かんだ。けどそれは、儚く消えていく。

 私と裕ちゃんの間には、羅良と彼氏のような絆は、ない。

「スマホ貸してあげるから、連絡しなよ。きっと心配してる」

「うん、そうだね。ありがとう」

 番号をすっかり暗記しているのだろう。羅良は迷うことなく画面をタップし、電話をかけながら部屋を出ていく。

 入れ替わりに、母が入ってきた。

「まさか、二股とはねえ……」

 ため息をつきながら、ちりとりの中の砂糖をゴミ箱に捨てる。

「違うよ。私は裕ちゃんとは何もしてない。キスすら、してないんだから」

 すぐに電話を終えた羅良が、静かに抗弁した。

「き、キスすら?」

「してない。だって私、裕ちゃん好きじゃないもん。友達だもの」

 本当だろうか。信じられない。

 だって裕ちゃん、私にはあんなに甘いキスをしたのに。

 疑惑の眼差しで見る私と母を無視し、羅良はもといたソファに戻る。

「迎えにきてくれるって」

「今から?」

「うん。一晩だって、離れていなくないの。やっと一緒にいられるようになったんだもの」

 そんなに好きな相手って……。

 信じられなくて、羅良を見つめる。

 裕ちゃんと比べて、写真の彼氏は背も小さいし、痩せているし、子供っぽいし、どこか頼りないっていうか……。
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