極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

 どくんどくんと、心臓が大きな音を立てていた。うつむいたまま、動けない。

「おい、顔上げろ」

 私にしか聞こえない、低い囁き声。

 恥じらいも大概にしておかないと、参列者に変に思われてしまう。

 断腸の思いで、思い切って顔を上げる。

 ぎゅっと目を閉じると、裕ちゃんの体温が近づいてくる気配を感じた。

 柔らかく温かい物が唇に触れる。

 まるで本物の花嫁にするような優しく甘いキスに、心臓が余計に跳ね上がった。

 裕ちゃんのキスって、気持ちいい……。

 暴れ続ける心臓に反し、脳の神経がマヒしていく。

 何も考えられなくなったとき、裕ちゃんが唇を放した。盛大な拍手で我に返る。

「新郎新婦、退場です」

 参列者と目を合わせないように、裕ちゃんに手を引かれてチャペルを後にした。

「ふう……」

 安堵のため息を吐くと、隣から低い声が降ってきた。

「気を抜くな。今から披露宴だ」

「うっ」

「もっと幸せそうに笑え。誰にもばれないようにな」

 そうして私は、真っ白なウエディングドレスで地獄の披露宴へと足を踏み入れたのだった。

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