極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
「う、うう~!」
負けず嫌いな私はやけくそになり、目を瞑って唇を突きだした。
ただし、相手の唇に出はなく、頬に。
一瞬の接触のあと、できるだけ背中をしならせる。
「い、今は、これが、精いっぱ~い」
昔の怪盗アニメの主人公のようなセリフを漏らすと、裕ちゃんはふきだした。
私のキスで、嬉しいのか? 羅良にキスされた気分になれたのかな?
「はは。仕方ないな、許してやるよ」
大きな手が頭をなでる。
体勢を整えられたと思うと、裕ちゃんの手はすっと私から離れていった。
「行ってくる」
歯を見せて笑った裕ちゃんがドアの向こうに消えていく。
私はそれを、ぼんやり見送った。
毎日この調子じゃ心臓がもたない。いったいいつ、元の生活に戻れるのか……。
はあああと深く息を吐き、玄関に座り込んだ。
心臓が平常運転に戻るまで、ゆうに三十分はかかった。