極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
「行かないと、怪しまれるだろう」
「ああ、そっか……」
予定されていたはずの旅行に行かないとなれば、周りは何かあったのかと勘繰ることだろう。
「行先はどこだっけ?」
「ハワイ」
「ベタだね~」
私はちょっと笑ってしまった。
裕ちゃんはハワイなんて行き慣れているだろうに、なぜ。
昔、彼からのハワイ土産でとても鮮やかなピンクの靴下をもらって、一度履いて洗ったらものすごい色落ちしたのを思い出した。
なぜあのお土産チョイスだったのかも気になるし、学校の体操服がピンク(しかもまだら)に染まってアワアワしていた母親が愉快で、記憶に残っている。
母は白いものと色物を洗って分ける習慣がなかったのだ。
それを笑いながら電話した次の年から、星野家のハワイ土産は、無難なチョコやアクセサリーになった。
「自立してからは行ってないから。ハワイは新婚旅行にとっておこうと思って」
「ふーん、そっか」
新婚旅行に、ハワイはとっておく。
そういう乙女みたいなことを考えたのは、裕ちゃんではなく、多分羅良だろう。
出発日までに、羅良が帰ってくればいいのにね。
心の中では思うけど、いちいち彼女の名前を口に出すのはやめた。
裕ちゃんも、意識してそうしているようだった。