極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
裕ちゃんもずっと無言だった。
演技だってわかっているのに、どうしてこんなに苦しい。
「裕ちゃん、やりすぎだよ」
やっとそれだけ言うと。
「うん。ごめん、止められなかった」
リアクションに困る返事が返ってきた。
「でもこれで、もう健太郎は来なくなると思うから」
裕ちゃんが言ったとき、エレベーターの扉が開いた。
自分の部屋に入り、心底ホッとする。
自分の部屋だって。本当は、裕ちゃんと羅良の新居なのに。
でも、守ってくれたのだ。
裕ちゃんは、偽の妻である私を、守ってくれた。
「ありがとう、裕ちゃん。健ちゃんのこと」
「夫として当然のことをしたまでだ」
裕ちゃんは微笑み、私の頭を撫でる。
「じゃあ、一度会社に戻る。一応健太郎の職場に問い合わせたら今日はもう帰っていると聞いて。嫌な予感がして見にきてよかった」
「えっ、戻るの?」
「俺はあいつと違って、仕事熱心だからな」
そう言うスーツの裕ちゃんは、誰より輝いている。尊すぎる。
でも、寂しいなあ。戻っちゃうのか。
「じゃあ、気をつけてね」
見上げると、裕ちゃんは軽くキスをした。
深いキスを覚えた私は、いつもより動揺しなくなっていた。
「いってきます」
そう返して、裕ちゃんは行ってしまった。