極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~
リビングのソファに深く座り、ひたすら宙をにらんでぼーっとする。
夕食の支度をしなくてはならないのに、何もする気になれない。
「って言っても、誰かが代わりにご飯を作ってくれるわけでもなく……」
いやいや立ち上がり、のそのそと冷蔵庫に近づいた時だった。
ポケットに入っていたスマホが、無遠慮に鳴る。
画面を見ると、発信相手は「公衆電話」となっていた。
ある予感が頭に閃いて、咄嗟に指を動かす。
「もしもし!」
叫ぶように受話器に問いかけると、一瞬間を置いて、返事が聞こえた。
『もしもし、希樹?』
「羅良? 羅良なのね?」
聞き間違えるはずがない。
生まれた時からずっと傍で聞いてきた声だ。
やっと落ち着いてきた胸が、再び強く鼓動を打ち始める。
「今どこ? 無事なの?」
質問する声が震えた。
『うん、元気。事件に巻き込まれたわけじゃないの。自分の意志で、私は今ここにいる』
ここ、というのがどこかはわからない。
けど、何かの事件に巻き込まれたわけじゃないことがわかっただけで、少しホッとした。
「まさか、結婚式の前日にいなくなるなんて思わなかったよ」
『ごめん。式、中止になった?』
「実は……」
私は羅良の身代わりとして結婚式を挙げ、新婚生活を営んでいることをざっくり話した。