極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

 裕ちゃんの声は、そよ風みたいに優しかった。なのに、私の心の奥は軋んで痛みを訴える。

「どこの家族も夫婦も、そんなもんじゃないかな。心から自分の好き勝手している人なんて、そうそういないよ」

「うん……」

「だからね、この件に関しては誰も悪くない。羅良は俺のことを責めていた?」

 思い切り首を横に振って否定すると、裕ちゃんは苦笑した。

「じゃあ、俺も悪くないんだ」

「当たり前だよ! 裕ちゃんは、全然、これっぽっちも悪くないんだから!」

「はは。そうかそうか。なあ、朝食の続きをしないか。せっかく希樹が用意してくれたんだから」

 裕ちゃんに促され、私は浮かせかけていた腰を下ろした。

 食欲はすっかり失せていたけど、私たちはゆっくりと食事を胃におさめた。

 コーヒーを飲みながら、湯気の向こうの裕ちゃんを見る。

 裕ちゃんは、もう羅良を連れ戻そうという気はないように見える。

 携帯の会社に調べてもらえば、どこの公衆電話からかかってきたか、わかるかもしれない。

 けど、それもしようとしない。

 とすると、裕ちゃんは今後、ご両親に事情を説明するつもりなのかな。

 政略結婚は破棄、父は会社を失い、家族は路頭に迷うことだろう。

 でも、このまま裕ちゃんを縛りつけるわけにはいかない。

 だって、彼には幸せになってほしいもの。

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