幸せな結末
「看護師失格だね。こんなんじゃ。」
看護師になってはじめのうちは人の死に対して恐怖を感じたり、悲しみに気持ちを保てないことがあった。でもこんなにも悲しい気持ちになったのは久しぶりだった。
いつもは我慢が出来ていたのに、今日はできない。
朝陽は理恵を後ろから抱きしめたまま抱きしめる手に力を込めた。
「俺も今日はつらかった。」
「朝陽も?」
「あぁ。本当は俺だって泣きたいくらいだよ。」
「本当に?」
「あぁ。こう見えて俺泣き虫だしさ。どんなに頑張っても助けられない命に向き合うときは足が震える。そして命のゲームに勝てないときは自分の力のなさに情けなくて仕方なくなる。」
理恵が看護師になり、朝陽が医師になってすぐは二人で人の命の儚さに何度も話をしたり、悲しみを分かち合っていた。

でもいつの日からか、慌ただしさに気持ちを紛らわせるすべを覚えてしまい、二人で分かち合うことをしてこなかった。

決して悲しい現実に向き合ってきていないわけじゃない。
いつの間にか一人で耐えようとして来てしまった。
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