幸せな結末
理恵は泣きそうな自分の気持ちをごまかそうとキッチンで料理をする手を止めなかった。
「旦那は私が子供が産めないという事実が分かる前、私が仕事を辞めて家庭を大切にしようとし始めると私をすぐにもう一度受け入れてくれました。」
「・・・」
「このまま幸せになれる。私たちはまたここからもう一度始められるって思ったんです。そんな時にわかって・・・私から旦那を拒絶して離婚の話を進めました。」
宗谷岬で自分が朝陽に離婚を切り出したときの朝陽の顔が浮かぶ。
「心の傷がまだずきずき痛むのに、湊は荒療治しようとするんですよ?多分私にもう一度看護師にもどって、自分の子供は抱けなくてもたくさんの命とかかわってその傷をいやしてほしいと思ったんでしょうね。」
理恵は空気を変えようと樹を見て微笑んだ。
「樹さんの赤ちゃんが生まれたら抱かせてくださいね?私、楽しみにしているんです。」
「もちろん」
そう答える樹。
「私、和田さんにやきもちやいていました。」
湊がどうして樹を選んだのか理恵にはわかるような気がした。
まっすぐな瞳で理恵を見ながら樹がまっすぐな言葉をぶつけてくる。
この人には嘘がない。相手を湊と同じように熱いくらいに思える人だと理恵は思った。
< 174 / 280 >

この作品をシェア

pagetop