【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第1話 僕と結婚してくれないかい?
○夏音のアパート
ごく普通の1DKアパート。
一見シンプルに見えてペンギンのぬいぐるみなど可愛い物がさりげなく置いてある。
――ピコン。
携帯が通知音を立て、ベッドで寝転んで雑誌を読んでいた古海夏音(ふるみ なつね)(28)が慌てて身体を起こす。
携帯を手に取り、画面を見つめる夏音。
そこには「選考結果のご連絡」と書いてある。
夏音「お願いだから……」
画面をスクロールしていき、「採用」の文字にほっと夏音、息を吐き出す。
夏音「やった!」
喜びながらさらにスクロールさせていった夏音だが、ぴたりと指が止まる。
夏音「なに、これ……?」
画面、アップ。
【追加条件 社長との婚姻】
夏音「なんかの間違いだよね?」
と、訝しがりながら問い合わせ先へ電話する。
(回想)
○コサイデザインのオフィス
10名程度の男女が働いているオフィス。
外から部長(52)が入ってくる。
部長「ちゃんとやってるか」
若い女性「……!」
コピーを取っていた女性の後ろを通る際、部長が彼女のお尻を触る。
女性、驚いて部長を睨む。
部長「なんだその目は?
派遣のお前なんか俺の一声でクビにできるんだぞ」
女性は悔しそうに唇を噛んで俯く。
夏音N「私の部署では部長のセクハラ、パワハラが横行していた」
部長、満足げにニヤリと笑い、席に着く。
部長「西田!」
佳子「はい!」
真っ青な顔で西田佳子(にしだ よしこ)(25)が立ち上がり、部長席へと駆け寄る。
部長「こんなデザインが通ると思っているのか?」
部長、バサッと書類を目の前に投げ捨てる。
うっすらと涙を浮かべる佳子。
部長「お前、会社員、向いてないんじゃないか?
さっさと結婚でもして辞めたらどうだ?」
静まりかえっているオフィス、誰もが気にしながらも目を合わせようとしない。
部長「ああでも、お前みたいなブスでデブでクズが、結婚なんてできるわけないか。すまん、すまん」
と、高笑いする。
夏音M「クズはお前だろ」
静観していた夏音、ボールペンを折りそうなほど強く握りしめる。
佳子「……酷い」
部長「あ゛あ゛っ? なんか文句でもあるのか?」
佳子「……!」
泣きながら佳子、走り去る。
部長「お前らも女だから許してもらえるとか甘えるなよ。
全く、無駄な時間取りやがって」
と、椅子に座り直す。
少しずついつもに戻っていくオフィス、夏音、席を立ち佳子を探す。
○同社内 資料室
佳子を見つけ、駆け寄る夏音。
夏音「大丈夫?」
佳子「古海せんぱーい!」
と、夏音に抱きつき号泣。
夏音「部長の言うこと、気にすることないよ。佳子は可愛いから私は好きだし、仕事だって私なんかよりちゃんとできてるし」
佳子「先輩、ありがとうございます」
と、僅かに笑う。
佳子「でも私、会社辞めようって思ってるんです」
夏音「なんで!?」
佳子「もう耐えられません……」
夏音、唇を噛みしめる。
夏音「わかった、私がなんとかする」
○同社内 廊下
凄いスピードで夏音、歩いていく。
それを追う、佳子。
佳子「先輩! なにする気ですか!?」
○同社内 オフィス
興奮気味に部長席の前に立つ夏音。
部長、怪訝そうに夏音を見上げる。
夏音「部長!」
部長「なんだ?」
夏音、一度、深呼吸。
次の瞬間、部長の胸ぐらを掴む。
夏音「女子社員苛めも大概にしろよ!?
お前が威張ってられるのはこの会社の部長だからであって、お前が偉いんじゃない。だいたい、人の容姿を馬鹿にできるような立場か?
この短足チビのハゲが!」
夏音、部長を突き放す。
部長、椅子に座った瞬間、カツラがズレる。
一瞬、静まりかえるが次の瞬間、オフィス中から大爆笑が起きる。
部長「な、な、な、な。
お前は、クビだー!」
叫んだ途端、さらにカツラがズレて落ちる。
○SkyEndカンパニー(以下、SE)社長室
硝子壁の向こう、各個人パーティションで区切られたオフィスでは社員たちが忙しく働いている。
ダークブラウンと黒で統一された社長室、応接セットに夏音と天倉有史(40)が向かい合って座っている。
天倉「それで会社、辞めたんだ?」
天倉有史、眼鏡を外して笑いすぎて出た涙を拭う。
夏音「……はい」
と、決まり悪くコーヒーを啜る。
天倉「いいね、君」
夏音「はぁ……」
夏音、複雑な表情。
天倉「経歴も問題ない。しかもあの、インスタ映えするカフェで有名な『シュケットゥ』のデザインをしたとか」
夏音「ありがとうございます」
天倉「僕としてはすぐにでも働いてもらいたいんだけど。でも、いくら社長でも一存で決めたりできないからね。他の人間の意見も聞かないと」
夏音「はい」
と、背筋を伸ばして座り直す。
天倉「二、三日中には連絡するから」
夏音「はい。本日はお時間、ありがとうございました」
天倉「こちらこそ、楽しい話を……」
と、思い出し笑い。
夏音、じろりと睨む。
天倉「ごめんごめん。じゃあ、君と一緒に仕事ができるのを楽しみにしているよ」
夏音「こちらこそ、よろしくお願いします」
夏音、SEをあとにし、地下鉄の駅へと向かう。
○地下鉄
夏音N「あの件で会社は辞めた。私が辞めたあと、続いて何人か辞めたという話も聞いている」
地下鉄の空いた席に夏音、座る。
夏音N「はじめた就職活動、どこでも辞めた理由に答えると難色を示された」
(回想2)
○どこかの会社での面接会場
面接官「それで会社辞めたの?」
夏音「はい」
面接官「それって、君に非がないって言えるのかな」
夏音「……はい?」
夏音は首を傾げているが、面接官は意地悪くニヤニヤ笑っている。
○さらに別の会社の面接
面接官「確かにその部長も悪いけどさ。だからってキレる君にも問題があると思うけど」
夏音「えっと……」
(回想2終わり)
○引き続き地下鉄
夏音M「正直いって、ああいう会社はこちらから願い下げだ。でも天倉社長は笑い飛ばしてくれた。あんなふうに面白がったのは彼が初めてだ」
夏音「どうぞ」
乗ってきた妊婦に夏音、席を譲る。
妊婦「ありがとうございます」
夏音「いえ」
夏音M「これで、決まるといいのだけれど……」
(回想終わり)
○SE社長室
面接結果のメールをもらった翌日。
天倉「それで。採用条件の確認だっけ」
夏音「はい」
勧められて応接セットのソファーに座る。
天倉「勤務は九時半から十八時。
週休二日の土日祝祭日休み。
夏季、年末年始休暇あり。
あとは……」
夏音「そういうことじゃなくてですね!」
天倉「じゃあ、どういうこと?」
と、不思議そうに首を傾ける。
夏音「……はぁーっ。
訊きたいのは頂いたメールのことで」
天倉「メール?」
夏音、天倉にメール画面を開いて携帯を渡す。
夏音「……これってどういうことなんでしょうか」
携帯の画面には【社長との婚姻】の文字。
天倉「どうって、文字通りの意味なんだけど」
と、平然とした顔で携帯を返す。
夏音「文字通りの意味って!?」
天倉「だからそのまま。僕との結婚が採用の条件、ってこと」
夏音「いや、だから……」
と、あたまを抱える。
天倉、夏音を無視してコーヒーを飲む。
夏音「この条件がのめない場合はどうなるんですか」
天倉「このたびの採用は見送らせていただきます、だね」
夏音「そんなー」
天倉「だから。僕と結婚してくれないかい?」
と、ニヤリと笑う。
ごく普通の1DKアパート。
一見シンプルに見えてペンギンのぬいぐるみなど可愛い物がさりげなく置いてある。
――ピコン。
携帯が通知音を立て、ベッドで寝転んで雑誌を読んでいた古海夏音(ふるみ なつね)(28)が慌てて身体を起こす。
携帯を手に取り、画面を見つめる夏音。
そこには「選考結果のご連絡」と書いてある。
夏音「お願いだから……」
画面をスクロールしていき、「採用」の文字にほっと夏音、息を吐き出す。
夏音「やった!」
喜びながらさらにスクロールさせていった夏音だが、ぴたりと指が止まる。
夏音「なに、これ……?」
画面、アップ。
【追加条件 社長との婚姻】
夏音「なんかの間違いだよね?」
と、訝しがりながら問い合わせ先へ電話する。
(回想)
○コサイデザインのオフィス
10名程度の男女が働いているオフィス。
外から部長(52)が入ってくる。
部長「ちゃんとやってるか」
若い女性「……!」
コピーを取っていた女性の後ろを通る際、部長が彼女のお尻を触る。
女性、驚いて部長を睨む。
部長「なんだその目は?
派遣のお前なんか俺の一声でクビにできるんだぞ」
女性は悔しそうに唇を噛んで俯く。
夏音N「私の部署では部長のセクハラ、パワハラが横行していた」
部長、満足げにニヤリと笑い、席に着く。
部長「西田!」
佳子「はい!」
真っ青な顔で西田佳子(にしだ よしこ)(25)が立ち上がり、部長席へと駆け寄る。
部長「こんなデザインが通ると思っているのか?」
部長、バサッと書類を目の前に投げ捨てる。
うっすらと涙を浮かべる佳子。
部長「お前、会社員、向いてないんじゃないか?
さっさと結婚でもして辞めたらどうだ?」
静まりかえっているオフィス、誰もが気にしながらも目を合わせようとしない。
部長「ああでも、お前みたいなブスでデブでクズが、結婚なんてできるわけないか。すまん、すまん」
と、高笑いする。
夏音M「クズはお前だろ」
静観していた夏音、ボールペンを折りそうなほど強く握りしめる。
佳子「……酷い」
部長「あ゛あ゛っ? なんか文句でもあるのか?」
佳子「……!」
泣きながら佳子、走り去る。
部長「お前らも女だから許してもらえるとか甘えるなよ。
全く、無駄な時間取りやがって」
と、椅子に座り直す。
少しずついつもに戻っていくオフィス、夏音、席を立ち佳子を探す。
○同社内 資料室
佳子を見つけ、駆け寄る夏音。
夏音「大丈夫?」
佳子「古海せんぱーい!」
と、夏音に抱きつき号泣。
夏音「部長の言うこと、気にすることないよ。佳子は可愛いから私は好きだし、仕事だって私なんかよりちゃんとできてるし」
佳子「先輩、ありがとうございます」
と、僅かに笑う。
佳子「でも私、会社辞めようって思ってるんです」
夏音「なんで!?」
佳子「もう耐えられません……」
夏音、唇を噛みしめる。
夏音「わかった、私がなんとかする」
○同社内 廊下
凄いスピードで夏音、歩いていく。
それを追う、佳子。
佳子「先輩! なにする気ですか!?」
○同社内 オフィス
興奮気味に部長席の前に立つ夏音。
部長、怪訝そうに夏音を見上げる。
夏音「部長!」
部長「なんだ?」
夏音、一度、深呼吸。
次の瞬間、部長の胸ぐらを掴む。
夏音「女子社員苛めも大概にしろよ!?
お前が威張ってられるのはこの会社の部長だからであって、お前が偉いんじゃない。だいたい、人の容姿を馬鹿にできるような立場か?
この短足チビのハゲが!」
夏音、部長を突き放す。
部長、椅子に座った瞬間、カツラがズレる。
一瞬、静まりかえるが次の瞬間、オフィス中から大爆笑が起きる。
部長「な、な、な、な。
お前は、クビだー!」
叫んだ途端、さらにカツラがズレて落ちる。
○SkyEndカンパニー(以下、SE)社長室
硝子壁の向こう、各個人パーティションで区切られたオフィスでは社員たちが忙しく働いている。
ダークブラウンと黒で統一された社長室、応接セットに夏音と天倉有史(40)が向かい合って座っている。
天倉「それで会社、辞めたんだ?」
天倉有史、眼鏡を外して笑いすぎて出た涙を拭う。
夏音「……はい」
と、決まり悪くコーヒーを啜る。
天倉「いいね、君」
夏音「はぁ……」
夏音、複雑な表情。
天倉「経歴も問題ない。しかもあの、インスタ映えするカフェで有名な『シュケットゥ』のデザインをしたとか」
夏音「ありがとうございます」
天倉「僕としてはすぐにでも働いてもらいたいんだけど。でも、いくら社長でも一存で決めたりできないからね。他の人間の意見も聞かないと」
夏音「はい」
と、背筋を伸ばして座り直す。
天倉「二、三日中には連絡するから」
夏音「はい。本日はお時間、ありがとうございました」
天倉「こちらこそ、楽しい話を……」
と、思い出し笑い。
夏音、じろりと睨む。
天倉「ごめんごめん。じゃあ、君と一緒に仕事ができるのを楽しみにしているよ」
夏音「こちらこそ、よろしくお願いします」
夏音、SEをあとにし、地下鉄の駅へと向かう。
○地下鉄
夏音N「あの件で会社は辞めた。私が辞めたあと、続いて何人か辞めたという話も聞いている」
地下鉄の空いた席に夏音、座る。
夏音N「はじめた就職活動、どこでも辞めた理由に答えると難色を示された」
(回想2)
○どこかの会社での面接会場
面接官「それで会社辞めたの?」
夏音「はい」
面接官「それって、君に非がないって言えるのかな」
夏音「……はい?」
夏音は首を傾げているが、面接官は意地悪くニヤニヤ笑っている。
○さらに別の会社の面接
面接官「確かにその部長も悪いけどさ。だからってキレる君にも問題があると思うけど」
夏音「えっと……」
(回想2終わり)
○引き続き地下鉄
夏音M「正直いって、ああいう会社はこちらから願い下げだ。でも天倉社長は笑い飛ばしてくれた。あんなふうに面白がったのは彼が初めてだ」
夏音「どうぞ」
乗ってきた妊婦に夏音、席を譲る。
妊婦「ありがとうございます」
夏音「いえ」
夏音M「これで、決まるといいのだけれど……」
(回想終わり)
○SE社長室
面接結果のメールをもらった翌日。
天倉「それで。採用条件の確認だっけ」
夏音「はい」
勧められて応接セットのソファーに座る。
天倉「勤務は九時半から十八時。
週休二日の土日祝祭日休み。
夏季、年末年始休暇あり。
あとは……」
夏音「そういうことじゃなくてですね!」
天倉「じゃあ、どういうこと?」
と、不思議そうに首を傾ける。
夏音「……はぁーっ。
訊きたいのは頂いたメールのことで」
天倉「メール?」
夏音、天倉にメール画面を開いて携帯を渡す。
夏音「……これってどういうことなんでしょうか」
携帯の画面には【社長との婚姻】の文字。
天倉「どうって、文字通りの意味なんだけど」
と、平然とした顔で携帯を返す。
夏音「文字通りの意味って!?」
天倉「だからそのまま。僕との結婚が採用の条件、ってこと」
夏音「いや、だから……」
と、あたまを抱える。
天倉、夏音を無視してコーヒーを飲む。
夏音「この条件がのめない場合はどうなるんですか」
天倉「このたびの採用は見送らせていただきます、だね」
夏音「そんなー」
天倉「だから。僕と結婚してくれないかい?」
と、ニヤリと笑う。
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