【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第13話 本当にこれでいいのかな
○天倉家(朝)
起きてきた夏音に目を留める天倉。
天倉「おは……よう。朝ごはん、たべ、る?」
夏音「……」
ちらっとだけ見て夏音、無言で洗面所へ消えていく。
顔を洗う夏音。
顔を拭き、鏡の自分をじっと見つめる。
夏音「……最低」
パンと両手で頬を叩き、夏音が気合いを入れる。
夏音、着替えを済ませてリビングへ向かう。
ダイニングでは朝食を食べずに、天倉が落ち着かず待っている。
夏音が椅子に座る。
夏音「いただきます」
と、箸を取り、勢いよくごはんを食べる。
天倉「い、いただきます」
食べながら天倉はちらちらと夏音をうかがっている。
夏音「昨日はすみませんでした。忘れてください」
天倉とは視線を合わせず、食事を続ける夏音。
天倉「え? あ、ああ……」
夏音「私、檜垣さんと付き合おうと思います。なので、この関係の解消を」
と、天倉の目の前に結婚指環を滑らせる。
天倉「……え?」
と、驚いて顔を上げる。
天倉「う、うん。……そうか」
天倉、背中を丸めてもそもそと食べる。
○SEオフィス
いつも通り仕事をしている夏音。
夏音を社長室からぼーっと見ている天倉。
視線があっても夏音、無視するように逸らす。
檜垣「夏音ちゃーん!」
勢いよくオフィスに入ってきた檜垣、夏音に抱きつく。
夏音「ちょっ、檜垣さん!」
苦笑いしながらも、楽しそうな夏音。
檜垣「このLINE、ほんと!? 嘘じゃない!?」
夏音「その話はここではちょっと……」
キスしそうな勢いで迫ってくる檜垣を抑えて困っていながらも、夏音は楽しそう。
天倉「夏音、檜垣」
社長室の戸を開け、天倉が手招きする。
夏音「ほら、行きましょう」
檜垣「そうだな」
と、夏音の腰を抱き、社長室へ連れていく。
一人がけソファーに天倉、向かい合って夏音と檜垣が座る。
檜垣「それで。……これってほんと!? 夏音ちゃんが俺と付き合うって!」
いったんは落ち着いたかと見えた檜垣だが、また大興奮で夏音に迫ってくる。
夏音「はい、嘘じゃないです。檜垣さんと付き合う……というか、結婚も考えていいかなー、なんて」
檜垣「マジで!?」
檜垣が抱きついて頬ずりしてくるのに苦笑いしながら、天倉を一瞥する夏音。
目があうと天倉が困ったように笑い、夏音は一瞬だけつらそうな顔をするが、すぐになんでもないフリをする。
檜垣「天倉さーん、早く夏音ちゃんと離婚してー。俺、いますぐ役所に駆け込みたいくらいの気持ちなんで」
天倉「あ、ああ……」
と、苦笑い。
檜垣「式はいつ挙げる? カドのオープニングに合わせてレストランウェディングにしようか。あ、でも、女は離婚してから再婚できるまで時間がかかるから……」
夏音「檜垣さん、気が早いですって」
檜垣「そうかなー?」
天倉「そうだよ、檜垣。悪いがまだ、夏音は僕の妻だ」
檜垣「だから早く離婚してくださいって」
檜垣が豪快に笑い、つられるようにふたりも笑う。
檜垣「せっかく夏音ちゃんが俺を選んでくれたのに、しばらくは仕事でこっちに来られない。残念」
夏音「はい、私も残念です」
檜垣「あ、俺、拠点がこっちじゃないから結婚したら夏音ちゃんの仕事が困るよなー。天倉さん、在宅で仕事できるようにならない?」
天倉「善処するよ。うちとしても優秀なデザイナーを手放すのは惜しいからね」
夏音「優秀なんて、そんな」
と、照れる。
そんな夏音を見て天倉と檜垣も照れる。
が、互いが照れていることを知り、怒ったように視線を逸らす。
檜垣「じゃあ夏音ちゃん、次会えるのひと月後くらいだけど、浮気すんなよ」
夏音「檜垣さんがすでに浮気なんですけど」
檜垣「それはそうだけど!」
にかっと笑った檜垣、きょろきょろと周りを見渡し、天倉以外が見ていないことを確認し、夏音にキスする。
檜垣「なるだけこっちに顔出せるように頑張る」
夏音「無理はしないでくださいね」
檜垣「もう可愛い! このまま連れていきたい! 天倉さん、ダメ?」
天倉「さすがにそれは……」
檜垣「うーっ、毎日電話して? 俺もするし」
夏音「はい」
檜垣「じゃあまた」
夏音に見送られ、何度も振り返りながら檜垣が去っていく。
夏音「その。……なんかいろいろ、すみませんでした」
天倉「いや、いいよ。檜垣とも話をしないととは思っていたし。それより早く、離婚しないとだね。檜垣のためにも……夏音のためにも」
と、目を伏せる。
夏音「よろしくお願いします」
夏音M「きっとこれでいい。私は有史さんを忘れて、私を大事にしてくれる檜垣さんを好きになる――」
○天倉家(夜)
【翌日】
天倉「夏音」
天倉に呼ばれ、リビングのソファーに夏音、並んで座る。
天倉「これ」
目の前に広げられたのは離婚届。
天倉「もう僕のサインは済ませてある。いつ出すかは夏音に任せるよ」
夏音「……はい」
目を伏せて離婚届をたたみ、夏音は手元に置く。
天倉「それから、住むところだけど。夏音さえよければ檜垣との関係が落ち着くまでここにいていいよ。あの勢いだと速攻で結婚だろうし、そうなると短期間に何度も引っ越しするのも手間だろうし」
夏音「……そうですね。お言葉に甘えさせていただきます」
天倉「うん、わかった。じゃあもうしばらくよろしく」
天倉、ソファーを立ち自分の部屋へ消えていく。
夏音「……はぁーっ」
夏音もため息をつき、ソファーを立って自分の部屋に行く。
机の上に離婚届を広げ、夏音がペンを取る。
書こうとしたものの紙につく直前でぴたりと止まり、そのまま固まる。
夏音「……はぁーっ」
ペンを置き夏音、姿勢を崩す。
夏音「なんでこんな簡単なことができないんだろう……」
○SEオフィス
天倉「夏音、これなんだけど……」
夏音「はい」
夏音、天倉と並んで手元のタブレットを見る。
それを、遠くから見ている末石。
夏音N「離婚のことは有史さんがすぐに、オープンにした。偽装結婚だったことも含めて。その方が、私が仕事しやすいだろうからって。そういう心遣いが嬉しい」
夏音「じゃあそれは……」
天倉「うん、そっちの方がいいかも」
夏音「わかりました」
と、自分の椅子に座り直し、作業を再開する。
天倉もすぐに社長室へと戻っていく。
夏音M「きっとこれが、普通だってわかっている、けど……」
○天倉家(夜)
自室で机の上に離婚届を広げ、見つめている夏音。
天倉「夏音ー、ごはん食べるー?」
夏音「あっ、はい! いただきます!」
ドアの向こうから天倉に声をかけられ、夏音は慌てて離婚届を引き出しにしまう。
夏音「何度も言うようですが、もう自分の食事は自分で作りますので……」
天倉「んー? 実を言うとさ、僕、ひとりで食事するの苦手なんだよね」
天倉が寂しそうに目を伏せる。
夏音「有史さん……?」
天倉「僕の両親は忙しい人でさ。子供の頃から、ひとりでの食事がほとんどだった。ひとりの食事は味気なくてさ」
夏音「……」
夏音、黙って天倉の話を聞いている。
天倉「深里と一緒に食事をするようになって初めて、食事ってこんなに美味しくて楽しいんだって知ったよ。深里がいなくなってまた、味気ないものに変わったけど。だからさ、できればいる間でいいから、僕と食事を続けてほしい」
天倉がくいっと首を僅かに傾け、訊ねてくる。
夏音「じゃあ、私がいなくなったらどうするんですか」
天倉「ん? そうだね。味気ない食事に戻るだけかな」
淡々と答え、深里用の食器に天倉が食事を盛るのを、夏音はじっと見ている。
夏音「いいんですか、それで」
天倉「いいもなにも、僕には引き留める理由がないからね」
天倉が深里の分のトレイを持ち上げる。
天倉「先に食べてていいからね」
夏音「……」
夏音、深里の部屋へ食事を運ぶ天倉を無言で見送る。
夏音「あれって、私がいなくなっても続けるのかな……」
夏音M「そして、深里さんとふたりで食べるの? 前はそんな愛が尊いと思っていた。でもそんなのは寂しすぎる。私は本当にこれで、いいのかな……?」
起きてきた夏音に目を留める天倉。
天倉「おは……よう。朝ごはん、たべ、る?」
夏音「……」
ちらっとだけ見て夏音、無言で洗面所へ消えていく。
顔を洗う夏音。
顔を拭き、鏡の自分をじっと見つめる。
夏音「……最低」
パンと両手で頬を叩き、夏音が気合いを入れる。
夏音、着替えを済ませてリビングへ向かう。
ダイニングでは朝食を食べずに、天倉が落ち着かず待っている。
夏音が椅子に座る。
夏音「いただきます」
と、箸を取り、勢いよくごはんを食べる。
天倉「い、いただきます」
食べながら天倉はちらちらと夏音をうかがっている。
夏音「昨日はすみませんでした。忘れてください」
天倉とは視線を合わせず、食事を続ける夏音。
天倉「え? あ、ああ……」
夏音「私、檜垣さんと付き合おうと思います。なので、この関係の解消を」
と、天倉の目の前に結婚指環を滑らせる。
天倉「……え?」
と、驚いて顔を上げる。
天倉「う、うん。……そうか」
天倉、背中を丸めてもそもそと食べる。
○SEオフィス
いつも通り仕事をしている夏音。
夏音を社長室からぼーっと見ている天倉。
視線があっても夏音、無視するように逸らす。
檜垣「夏音ちゃーん!」
勢いよくオフィスに入ってきた檜垣、夏音に抱きつく。
夏音「ちょっ、檜垣さん!」
苦笑いしながらも、楽しそうな夏音。
檜垣「このLINE、ほんと!? 嘘じゃない!?」
夏音「その話はここではちょっと……」
キスしそうな勢いで迫ってくる檜垣を抑えて困っていながらも、夏音は楽しそう。
天倉「夏音、檜垣」
社長室の戸を開け、天倉が手招きする。
夏音「ほら、行きましょう」
檜垣「そうだな」
と、夏音の腰を抱き、社長室へ連れていく。
一人がけソファーに天倉、向かい合って夏音と檜垣が座る。
檜垣「それで。……これってほんと!? 夏音ちゃんが俺と付き合うって!」
いったんは落ち着いたかと見えた檜垣だが、また大興奮で夏音に迫ってくる。
夏音「はい、嘘じゃないです。檜垣さんと付き合う……というか、結婚も考えていいかなー、なんて」
檜垣「マジで!?」
檜垣が抱きついて頬ずりしてくるのに苦笑いしながら、天倉を一瞥する夏音。
目があうと天倉が困ったように笑い、夏音は一瞬だけつらそうな顔をするが、すぐになんでもないフリをする。
檜垣「天倉さーん、早く夏音ちゃんと離婚してー。俺、いますぐ役所に駆け込みたいくらいの気持ちなんで」
天倉「あ、ああ……」
と、苦笑い。
檜垣「式はいつ挙げる? カドのオープニングに合わせてレストランウェディングにしようか。あ、でも、女は離婚してから再婚できるまで時間がかかるから……」
夏音「檜垣さん、気が早いですって」
檜垣「そうかなー?」
天倉「そうだよ、檜垣。悪いがまだ、夏音は僕の妻だ」
檜垣「だから早く離婚してくださいって」
檜垣が豪快に笑い、つられるようにふたりも笑う。
檜垣「せっかく夏音ちゃんが俺を選んでくれたのに、しばらくは仕事でこっちに来られない。残念」
夏音「はい、私も残念です」
檜垣「あ、俺、拠点がこっちじゃないから結婚したら夏音ちゃんの仕事が困るよなー。天倉さん、在宅で仕事できるようにならない?」
天倉「善処するよ。うちとしても優秀なデザイナーを手放すのは惜しいからね」
夏音「優秀なんて、そんな」
と、照れる。
そんな夏音を見て天倉と檜垣も照れる。
が、互いが照れていることを知り、怒ったように視線を逸らす。
檜垣「じゃあ夏音ちゃん、次会えるのひと月後くらいだけど、浮気すんなよ」
夏音「檜垣さんがすでに浮気なんですけど」
檜垣「それはそうだけど!」
にかっと笑った檜垣、きょろきょろと周りを見渡し、天倉以外が見ていないことを確認し、夏音にキスする。
檜垣「なるだけこっちに顔出せるように頑張る」
夏音「無理はしないでくださいね」
檜垣「もう可愛い! このまま連れていきたい! 天倉さん、ダメ?」
天倉「さすがにそれは……」
檜垣「うーっ、毎日電話して? 俺もするし」
夏音「はい」
檜垣「じゃあまた」
夏音に見送られ、何度も振り返りながら檜垣が去っていく。
夏音「その。……なんかいろいろ、すみませんでした」
天倉「いや、いいよ。檜垣とも話をしないととは思っていたし。それより早く、離婚しないとだね。檜垣のためにも……夏音のためにも」
と、目を伏せる。
夏音「よろしくお願いします」
夏音M「きっとこれでいい。私は有史さんを忘れて、私を大事にしてくれる檜垣さんを好きになる――」
○天倉家(夜)
【翌日】
天倉「夏音」
天倉に呼ばれ、リビングのソファーに夏音、並んで座る。
天倉「これ」
目の前に広げられたのは離婚届。
天倉「もう僕のサインは済ませてある。いつ出すかは夏音に任せるよ」
夏音「……はい」
目を伏せて離婚届をたたみ、夏音は手元に置く。
天倉「それから、住むところだけど。夏音さえよければ檜垣との関係が落ち着くまでここにいていいよ。あの勢いだと速攻で結婚だろうし、そうなると短期間に何度も引っ越しするのも手間だろうし」
夏音「……そうですね。お言葉に甘えさせていただきます」
天倉「うん、わかった。じゃあもうしばらくよろしく」
天倉、ソファーを立ち自分の部屋へ消えていく。
夏音「……はぁーっ」
夏音もため息をつき、ソファーを立って自分の部屋に行く。
机の上に離婚届を広げ、夏音がペンを取る。
書こうとしたものの紙につく直前でぴたりと止まり、そのまま固まる。
夏音「……はぁーっ」
ペンを置き夏音、姿勢を崩す。
夏音「なんでこんな簡単なことができないんだろう……」
○SEオフィス
天倉「夏音、これなんだけど……」
夏音「はい」
夏音、天倉と並んで手元のタブレットを見る。
それを、遠くから見ている末石。
夏音N「離婚のことは有史さんがすぐに、オープンにした。偽装結婚だったことも含めて。その方が、私が仕事しやすいだろうからって。そういう心遣いが嬉しい」
夏音「じゃあそれは……」
天倉「うん、そっちの方がいいかも」
夏音「わかりました」
と、自分の椅子に座り直し、作業を再開する。
天倉もすぐに社長室へと戻っていく。
夏音M「きっとこれが、普通だってわかっている、けど……」
○天倉家(夜)
自室で机の上に離婚届を広げ、見つめている夏音。
天倉「夏音ー、ごはん食べるー?」
夏音「あっ、はい! いただきます!」
ドアの向こうから天倉に声をかけられ、夏音は慌てて離婚届を引き出しにしまう。
夏音「何度も言うようですが、もう自分の食事は自分で作りますので……」
天倉「んー? 実を言うとさ、僕、ひとりで食事するの苦手なんだよね」
天倉が寂しそうに目を伏せる。
夏音「有史さん……?」
天倉「僕の両親は忙しい人でさ。子供の頃から、ひとりでの食事がほとんどだった。ひとりの食事は味気なくてさ」
夏音「……」
夏音、黙って天倉の話を聞いている。
天倉「深里と一緒に食事をするようになって初めて、食事ってこんなに美味しくて楽しいんだって知ったよ。深里がいなくなってまた、味気ないものに変わったけど。だからさ、できればいる間でいいから、僕と食事を続けてほしい」
天倉がくいっと首を僅かに傾け、訊ねてくる。
夏音「じゃあ、私がいなくなったらどうするんですか」
天倉「ん? そうだね。味気ない食事に戻るだけかな」
淡々と答え、深里用の食器に天倉が食事を盛るのを、夏音はじっと見ている。
夏音「いいんですか、それで」
天倉「いいもなにも、僕には引き留める理由がないからね」
天倉が深里の分のトレイを持ち上げる。
天倉「先に食べてていいからね」
夏音「……」
夏音、深里の部屋へ食事を運ぶ天倉を無言で見送る。
夏音「あれって、私がいなくなっても続けるのかな……」
夏音M「そして、深里さんとふたりで食べるの? 前はそんな愛が尊いと思っていた。でもそんなのは寂しすぎる。私は本当にこれで、いいのかな……?」