【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第14話 私を見て!
○天倉家(夜)
自室のベッドでごろごろしている夏音。
――ピコン。
携帯が通知音を立て、夏音が起き上がる。
檜垣LINE(以下L表記)【元気にやってるか】
夏音、少し考えて携帯へ指を走らせる。
夏音L【はい、元気です。檜垣さんはどうですか】
檜垣L【元気、元気。そういえば夏音ちゃんってまだ、天倉さんの家に住んでんだよな?】
夏音L【はい。有史さんがいいって言ってくれたので、お言葉に甘えています】
檜垣L【それなんだけどさ、俺、そっちに家、借りようと思うんだ。んで、夏音ちゃんはそこに住んだらいい】
夏音L【いいんですか……?】
檜垣L【いいもなにももう手配済み。週末、ちょっとだけそっち行けそうだから下見に行こう】
夏音「強引」
と、くすりと笑う。
夏音L【わかりました。ひさしぶりに会えるの、楽しみにしています】
檜垣L【早く夏音ちゃんに会いたい! 絶対行けるように頑張るから!】
夏音L【無理はしないでくださいね】
檜垣L【夏音ちゃん、優しい! 愛してる!】
愛しているのスタンプを送り返し、画面を閉じる夏音。
夏音「ここでの生活もあとちょっとか……」
ベッドから出て夏音が机の引き出しを開ける。
引き出しから夏音が出したのはいまだに妻の欄が未記入の離婚届。
夏音「これも早く出さなきゃいけないのはわかってるんだけど……」
しばらく見つめたあと、またたたんで引き出しにしまう。
○天倉家(朝)
いつものように向かい合って朝食を食べている夏音と天倉。
夏音「あの」
天倉「ん?」
少しだけ首を傾げ、天倉が不思議そうに夏音を見つめる。
夏音「……なんでもない、です」
天倉「そう?」
ふたり、何事もなかったかのように食事を再開する。
夏音M「まだ下見に行くだけだし、引っ越しが決まってから言えばいいよね……」
○天倉家
週末。
天倉家に夏音を迎えに檜垣が来る。
檜垣「夏音ちゃん、ひさしぶりだな!」
夏音「えっ、あっ、その、有史さんが見てるので……」
玄関先で熱烈に抱きつき、頬にキスしてくる檜垣に照れる夏音。
檜垣「なに見てるんだよ、天倉さん」
檜垣、しっしと天倉を追い払う。
天倉「ここは僕の家なんだが」
と、苦笑いする。
夏音「いってきます」
天倉「いってらっしゃい」
天倉、笑って夏音を送り出す。
夏音も無自覚に、嬉しそうに笑っている。
檜垣がそんなふたりをじっと見ている。
○マンション
天倉の家から車で一時間ほど離れた、高級住宅地の中に立つマンション。
3階建ての低層マンションが二棟、並んで建っている。
周囲には植物が配してあり、いかにも高級な空気を醸し出している。
不動産販売員(以下販売員)(30代半ば)「おはようございます」
檜垣「今日はよろしく」
販売員「こちらこそよろしくお願いいたします。早速ですが……」
と、中に案内する。
エントランスが高級ホテルのようで、ついつい夏音は周囲を見渡してしまう。
エレベーターを上がり、2階へ。
販売員「この部屋になります」
中は天倉の家ほどは広くないが、以前夏音が住んでいたアパートよりはずっと広い。
夏音「檜垣さん、こっちに拠点を移すんですか……?」
檜垣「いや? こっちは夏音ちゃんと正式に結婚が決まって、んでもって夏音ちゃんが在宅で仕事ができるようになるまでの仮住まいだけど?」
夏音M「いやいやいや、ちょっとよくわからない」
うーんと夏音、悩む。
夏音「檜垣さんはこちらに住む……?」
檜垣「いや? ここはこっちに来たときに泊まるだけ用。んで、そこに夏音ちゃんがいてくれたら最高だな、と」
夏音「あの、じゃあ、単身用のマンションとかでも……。私、自分で借りますし、そこに檜垣さんが泊まりに来てくれれば……」
檜垣「なんで? 自分の嫁が住むとこくらい、俺が準備するのが当たり前だろ」
夏音M「嫁!」
ぼふっと煙を吐き、一気に赤くなる夏音。
そんな夏音をニヤニヤ笑いながら檜垣が見ている。
夏音「ええ……ああ……うん……」
檜垣「夏音ちゃんはなーんも気にしなくていいの。それで? ここは気に入った? 気に入らないのなら他のところ案内してもらうけど」
夏音「……気に入りまし、た」
まだ赤い顔でもそもそと夏音が言う。
檜垣「わかった。……じゃあ、手続きよろしく」
販売員「ありがとうございます! かしこまりました!」
と、勢いよくお辞儀する。
○スリール・ドゥ・デエス(夜)
向かい合って食事をしているふたり。
檜垣「よかった、家が決まって。いつまでも天倉さんとふたりなんてよくないからな」
夏音「そうですね」
と、曖昧に笑う。
檜垣「引っ越し、いつにする? 来週にでもと言いたいところだけど、まだ家具も揃ってないしなー」
携帯でスケジュールを確認しながら檜垣はぶつぶつ言っている。
夏音、それを見ながら気づかれないように小さくため息をつく。
檜垣「家具は夏音ちゃんに任せるから、いい感じに揃えてよ」
夏音「いいんですか……? だって、檜垣さんの家なのに」
檜垣「いいの、いいの。夏音ちゃんのセンス、俺の趣味ばっちりだし。それに俺の家じゃない、俺たちの家」
夏音「そう、ですね」
少し頬を赤らめて俯く夏音。
メインが終わり、デザートを待っている間に照明が落ち、結婚行進曲が響いてくる。
夏音「なんかあるんですかね……?」
突然檜垣が立ち上がり、夏音の前に跪く。
檜垣「夏音ちゃん……いや、夏音。俺と結婚してくれ」
指環のケースが開かれた瞬間、夏音と檜垣の周りにだけ灯りが点く。
夏音「え……」
戸惑って檜垣を見つめる。
檜垣、真剣な目で夏音を見つめている。
夏音「……はい」
と、震える手で指環を受け取る。
立ち上がった檜垣、夏音を抱きしめてキスをする。
周囲から祝福の拍手が起き、店内が元に戻る。
檜垣「よかった、夏音ちゃんがOKしてくれて」
嬉しそうに笑う檜垣に笑い返しながらも、どこかぎこちない夏音。
○檜垣の車(夜)
じっと、自分の左手薬指に嵌めた婚約指環を見ている夏音。
檜垣「このまま夏音を可愛がりたいけど、明日も朝早いから帰らないといけないしなー」
夏音「えっ? ああ、残念ですね」
ぼーっとしていた夏音、慌てて檜垣に返事する。
檜垣「夏音もそう思ってくれる!? 嬉しいな!」
上機嫌で運転している檜垣。
夏音、気づかれないように小さくため息をつく。
○天倉家(夜)
家の前で夏音が檜垣の車を降りる。
夏音「ありがとうございました。その、これ、嬉しかったです」
と、指環を檜垣へ見せる。
檜垣「俺こそ、プロポーズ受けてくれてありがとう。また、連絡する。じゃあ」
檜垣、夏音にキスして帰っていく。
夏音、玄関の戸を開ける前に指環を外してケースにしまう。
夏音「ただいまー」
キッチンでは天倉が料理をしている。
天倉「おかえりー」
夏音「まだ食べてなかったんですか」
天倉「ああ、なんか仕事が乗っちゃってさ。気づいたらこんな時間」
天倉、できあがった料理を自分の皿と深里の皿に取り分けていく。
夏音「……今日、檜垣さんにプロポーズされました」
天倉「それはよかったね」
深里の皿を盆に並べている天倉を、夏音はじっと見ている。
夏音「有史さんはなんとも思わないんですか」
天倉「ん? そうだね、檜垣はいい奴だから僕なんかと違って、夏音を幸せにしてくれるよ。よかったね」
盆を手に深里の部屋へ向かおうとする天倉の前に夏音が立ちふさがる。
夏音「いつまでこんなことを続ける気ですか? 少しは……少しは、生きている人間と向き合ってください」
天倉「夏音?」
意味のわかっていない天倉に夏音がかっとなる。
夏音「深里さんは八年も前に死んでるんです! 死んだ人間じゃなくて私を見て!」
ヒステリックに叫んだ夏音、盆を上の皿を払い落とす。
派手な音を手手割れる皿。
夏音「あ……」
我に返った夏音、真っ青な顔で立ち尽くすも、泣きだしそうな顔のままその場を逃げだす。
○近くの路上(夜)
前も見ずに走る夏音。
突然、車のヘッドライトに照らし出され、けたたましいクラクションとブレーキ音が響き渡る。
立ち尽くす夏音。
天倉が追ってくる。
天倉「夏音ー!」
自室のベッドでごろごろしている夏音。
――ピコン。
携帯が通知音を立て、夏音が起き上がる。
檜垣LINE(以下L表記)【元気にやってるか】
夏音、少し考えて携帯へ指を走らせる。
夏音L【はい、元気です。檜垣さんはどうですか】
檜垣L【元気、元気。そういえば夏音ちゃんってまだ、天倉さんの家に住んでんだよな?】
夏音L【はい。有史さんがいいって言ってくれたので、お言葉に甘えています】
檜垣L【それなんだけどさ、俺、そっちに家、借りようと思うんだ。んで、夏音ちゃんはそこに住んだらいい】
夏音L【いいんですか……?】
檜垣L【いいもなにももう手配済み。週末、ちょっとだけそっち行けそうだから下見に行こう】
夏音「強引」
と、くすりと笑う。
夏音L【わかりました。ひさしぶりに会えるの、楽しみにしています】
檜垣L【早く夏音ちゃんに会いたい! 絶対行けるように頑張るから!】
夏音L【無理はしないでくださいね】
檜垣L【夏音ちゃん、優しい! 愛してる!】
愛しているのスタンプを送り返し、画面を閉じる夏音。
夏音「ここでの生活もあとちょっとか……」
ベッドから出て夏音が机の引き出しを開ける。
引き出しから夏音が出したのはいまだに妻の欄が未記入の離婚届。
夏音「これも早く出さなきゃいけないのはわかってるんだけど……」
しばらく見つめたあと、またたたんで引き出しにしまう。
○天倉家(朝)
いつものように向かい合って朝食を食べている夏音と天倉。
夏音「あの」
天倉「ん?」
少しだけ首を傾げ、天倉が不思議そうに夏音を見つめる。
夏音「……なんでもない、です」
天倉「そう?」
ふたり、何事もなかったかのように食事を再開する。
夏音M「まだ下見に行くだけだし、引っ越しが決まってから言えばいいよね……」
○天倉家
週末。
天倉家に夏音を迎えに檜垣が来る。
檜垣「夏音ちゃん、ひさしぶりだな!」
夏音「えっ、あっ、その、有史さんが見てるので……」
玄関先で熱烈に抱きつき、頬にキスしてくる檜垣に照れる夏音。
檜垣「なに見てるんだよ、天倉さん」
檜垣、しっしと天倉を追い払う。
天倉「ここは僕の家なんだが」
と、苦笑いする。
夏音「いってきます」
天倉「いってらっしゃい」
天倉、笑って夏音を送り出す。
夏音も無自覚に、嬉しそうに笑っている。
檜垣がそんなふたりをじっと見ている。
○マンション
天倉の家から車で一時間ほど離れた、高級住宅地の中に立つマンション。
3階建ての低層マンションが二棟、並んで建っている。
周囲には植物が配してあり、いかにも高級な空気を醸し出している。
不動産販売員(以下販売員)(30代半ば)「おはようございます」
檜垣「今日はよろしく」
販売員「こちらこそよろしくお願いいたします。早速ですが……」
と、中に案内する。
エントランスが高級ホテルのようで、ついつい夏音は周囲を見渡してしまう。
エレベーターを上がり、2階へ。
販売員「この部屋になります」
中は天倉の家ほどは広くないが、以前夏音が住んでいたアパートよりはずっと広い。
夏音「檜垣さん、こっちに拠点を移すんですか……?」
檜垣「いや? こっちは夏音ちゃんと正式に結婚が決まって、んでもって夏音ちゃんが在宅で仕事ができるようになるまでの仮住まいだけど?」
夏音M「いやいやいや、ちょっとよくわからない」
うーんと夏音、悩む。
夏音「檜垣さんはこちらに住む……?」
檜垣「いや? ここはこっちに来たときに泊まるだけ用。んで、そこに夏音ちゃんがいてくれたら最高だな、と」
夏音「あの、じゃあ、単身用のマンションとかでも……。私、自分で借りますし、そこに檜垣さんが泊まりに来てくれれば……」
檜垣「なんで? 自分の嫁が住むとこくらい、俺が準備するのが当たり前だろ」
夏音M「嫁!」
ぼふっと煙を吐き、一気に赤くなる夏音。
そんな夏音をニヤニヤ笑いながら檜垣が見ている。
夏音「ええ……ああ……うん……」
檜垣「夏音ちゃんはなーんも気にしなくていいの。それで? ここは気に入った? 気に入らないのなら他のところ案内してもらうけど」
夏音「……気に入りまし、た」
まだ赤い顔でもそもそと夏音が言う。
檜垣「わかった。……じゃあ、手続きよろしく」
販売員「ありがとうございます! かしこまりました!」
と、勢いよくお辞儀する。
○スリール・ドゥ・デエス(夜)
向かい合って食事をしているふたり。
檜垣「よかった、家が決まって。いつまでも天倉さんとふたりなんてよくないからな」
夏音「そうですね」
と、曖昧に笑う。
檜垣「引っ越し、いつにする? 来週にでもと言いたいところだけど、まだ家具も揃ってないしなー」
携帯でスケジュールを確認しながら檜垣はぶつぶつ言っている。
夏音、それを見ながら気づかれないように小さくため息をつく。
檜垣「家具は夏音ちゃんに任せるから、いい感じに揃えてよ」
夏音「いいんですか……? だって、檜垣さんの家なのに」
檜垣「いいの、いいの。夏音ちゃんのセンス、俺の趣味ばっちりだし。それに俺の家じゃない、俺たちの家」
夏音「そう、ですね」
少し頬を赤らめて俯く夏音。
メインが終わり、デザートを待っている間に照明が落ち、結婚行進曲が響いてくる。
夏音「なんかあるんですかね……?」
突然檜垣が立ち上がり、夏音の前に跪く。
檜垣「夏音ちゃん……いや、夏音。俺と結婚してくれ」
指環のケースが開かれた瞬間、夏音と檜垣の周りにだけ灯りが点く。
夏音「え……」
戸惑って檜垣を見つめる。
檜垣、真剣な目で夏音を見つめている。
夏音「……はい」
と、震える手で指環を受け取る。
立ち上がった檜垣、夏音を抱きしめてキスをする。
周囲から祝福の拍手が起き、店内が元に戻る。
檜垣「よかった、夏音ちゃんがOKしてくれて」
嬉しそうに笑う檜垣に笑い返しながらも、どこかぎこちない夏音。
○檜垣の車(夜)
じっと、自分の左手薬指に嵌めた婚約指環を見ている夏音。
檜垣「このまま夏音を可愛がりたいけど、明日も朝早いから帰らないといけないしなー」
夏音「えっ? ああ、残念ですね」
ぼーっとしていた夏音、慌てて檜垣に返事する。
檜垣「夏音もそう思ってくれる!? 嬉しいな!」
上機嫌で運転している檜垣。
夏音、気づかれないように小さくため息をつく。
○天倉家(夜)
家の前で夏音が檜垣の車を降りる。
夏音「ありがとうございました。その、これ、嬉しかったです」
と、指環を檜垣へ見せる。
檜垣「俺こそ、プロポーズ受けてくれてありがとう。また、連絡する。じゃあ」
檜垣、夏音にキスして帰っていく。
夏音、玄関の戸を開ける前に指環を外してケースにしまう。
夏音「ただいまー」
キッチンでは天倉が料理をしている。
天倉「おかえりー」
夏音「まだ食べてなかったんですか」
天倉「ああ、なんか仕事が乗っちゃってさ。気づいたらこんな時間」
天倉、できあがった料理を自分の皿と深里の皿に取り分けていく。
夏音「……今日、檜垣さんにプロポーズされました」
天倉「それはよかったね」
深里の皿を盆に並べている天倉を、夏音はじっと見ている。
夏音「有史さんはなんとも思わないんですか」
天倉「ん? そうだね、檜垣はいい奴だから僕なんかと違って、夏音を幸せにしてくれるよ。よかったね」
盆を手に深里の部屋へ向かおうとする天倉の前に夏音が立ちふさがる。
夏音「いつまでこんなことを続ける気ですか? 少しは……少しは、生きている人間と向き合ってください」
天倉「夏音?」
意味のわかっていない天倉に夏音がかっとなる。
夏音「深里さんは八年も前に死んでるんです! 死んだ人間じゃなくて私を見て!」
ヒステリックに叫んだ夏音、盆を上の皿を払い落とす。
派手な音を手手割れる皿。
夏音「あ……」
我に返った夏音、真っ青な顔で立ち尽くすも、泣きだしそうな顔のままその場を逃げだす。
○近くの路上(夜)
前も見ずに走る夏音。
突然、車のヘッドライトに照らし出され、けたたましいクラクションとブレーキ音が響き渡る。
立ち尽くす夏音。
天倉が追ってくる。
天倉「夏音ー!」