【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第17話 私は――
○天倉家(朝)
千寿子「さあさ、行きましょう」
天倉「ちょっと待ってください! 夏音!」
抵抗虚しく車に押し込められ、連れ去られる天倉を夏音は呆然と見ている。
夏音M「えっ、どういうこと!?」
○同日天倉家
夏音が不安そうに電話をかけている。
携帯アナウンス「おかけになった電話は……」
夏音「出ない……」
はぁーっと、夏音が大きなため息をつく。
携帯画面の時計はすでに、お昼を過ぎている。
夏音「どうしたらいいんだろう……」
夏音、落ち着かず家の中をうろうろする。
が、解決策は見つからない。
夏音「待ってるしかないのかな……」
○天倉家(朝)
ぼーっと歯を磨いている夏音。
夏音N「結局、昨日の夜、有史さんは帰ってこなかった。電話も繋がらないし、どうしていいのかわからない」
夏音「会社に行って末石専務に相談してみよう……」
○SEオフィス
なぜかざわついているオフィス。
社員女「これからどうなるの?」
社員男「まさか、会社がなくなるとかないよな」
不穏な空気に夏音、ますます不安になる。
千寿子「古海さん!」
と、嬉しそうに笑いながら千寿子が社長室から出てくる。
末石「千寿子さん!」
末石がその後ろを追ってくる。
千寿子「有史さんがとうとう、会社を継ぐ決心をしてくれたの」
夏音の両手を取って千寿子は喜んでいる。
夏音「え……」
顔面蒼白で立ち尽くす夏音。
末石「千寿子さん。その話はこちらで」
末石、千寿子を社長室へ促し、夏音にも来るように頷く。
夏音、ふらふらとその後に続く。
○SE社長室
千寿子の前に夏音と末石が並んで座っている。
千寿子「有史さんがね、とうとう会社を継いでくださるって。和之さんももうお年ですから、そろそろ引退したいですしね」
千寿子は嬉しくてたまらないのか、にこにこと笑いながら話している。
末石は苦虫を噛み潰したような顔で、夏音は茫然自失でそれを聞いている。
千寿子「だいたい、こんなちっぽけな会社、有史さんには似合わないんですよ」
末石「こほん」
不快そうに末石が咳払いし、千寿子が一瞬だけ怯む。
千寿子「ま、まあ、こちらの会社は末石さんがいらっしゃるから、有史さんがいなくてもなんとでもなるでしょ。潰れたところで困る人もいらっしゃらないし」
末石「こほん」
末石が千寿子を睨む。
千寿子、不快そうな顔をするものの、すぐに気を取り直す。
千寿子「古海さんとも別れて、昨日お見合いした代議士先生のお嬢様と結婚なさるそうです。もちろん、古海さんにはそれなりにさせていただきます」
テーブルの上に千寿子が分厚い封筒を滑らせる。
夏音「……これはいったい、どういうことですか」
夏音、怒りで震えながら声を絞り出す。
千寿子「見ておわかりにならないの? 慰謝料です。これで足りないというのなら……」
と、さらにバッグの中から封筒を出そうとする。
夏音「ふざけないで!」
夏音がテーブルの上の封筒を払い落とす。
夏音「こんなもので私が納得するとでも!? 有史さんと話をさせて!」
千寿子「それはできない相談だわ」
千寿子は冷静に落ちた封筒を拾い、バッグの中へしまう。
千寿子「有史さんはもう二度と、貴方とはお会いにならないそうです」
夏音の前へ千寿子が天倉の結婚指環を滑らせる。
夏音「……!」
真っ白な顔でそれを見つめる夏音。
夏音M「嘘。嘘。そんなはずない」
千寿子「あの家も早々に出ていってください。処分しますので」
勝ち誇って千寿子が笑う。
夏音M「だって有史さんは、ふたりで幸せになろうって言ってくれた」
千寿子「あとの手続き等、弁護士に任せてありますので。それでは」
千寿子が立ち上がり、末石がドアを開ける。
夏音M「残りの人生は私と生きていくって」
末石「古海、大丈夫か」
末石から声をかけられ、ようやく夏音が顔を上げる。
夏音「末石専務……」
末石「悪いが、状況を確認させてくれ。天倉とは別れたんじゃなかったのか?」
どさっと末石はソファーに座り、前屈みなって夏音に聞いてくる。
夏音「その、いろいろあってよりを戻したっていうか……。やっと互いに自分の気持ちに気づいて、その、偽装じゃなくてちゃんとした夫婦になったはずだったんです」
末石「うん、まあ、なんとなくわかった。それがなんでこんなことになってる?」
夏音「別れたんだったら見合いを、って実家に呼びだされたんです。でも有史さんは私と別れたりしないって言ってくれて。けどお父さんによく考えるように言われて……。そしたら昨日の朝、お母さんが強引に有史さんを見合いに連れていってそれっきり……」
末石「……はぁーっ」
ため息をついて末石があたまを抱える。
末石「天倉がおとなしく言うことを聞くはずがない。なのに音沙汰がないのはなにか考えがあってなのか……」
夏音「末石専務も連絡つかないんですか」
末石「繋がりすらしない」
夏音・末石「……はぁーっ」
末石「とにかく、どうにか連絡取れないかやってみる。早まったことだけはしないように」
夏音「はい」
と、硬い顔で頷く。
○天倉家(夜)
夏音「有史さん……」
真っ暗な寝室で、有史のシャツを羽織り、枕を抱いて座っている夏音。
夏音「別れるとか嘘ですよね……」
ぎゅっと強く、天倉の指環を握り込む。
夏音「なんで私は、なにもできないんだろう……」
ぎゅっと枕を抱いて夏音、小さくなる。
○SEオフィス
社長室で末石と弁護士が話しているのを不安そうに気にしている社員たち。
夏音もちらちらと中を見ている。
檜垣「夏音ちゃん!」
夏音「うわっ!」
いきなり肩を叩かれ夏音、振り返る。
夏音「檜垣さん、どうしたんですか? しばらくはこっちには来ないって……」
気まずそうに話す夏音。
檜垣「ん? なんか面白いことになってるらしいし? 超特急で片付けて見学に来た」
檜垣、ちらっと社長室の中を見て、意地悪そうに笑う。
夏音「面白いこと……」
複雑な顔で夏音が黙る。
檜垣「おっ、出てきた」
社長室のドアを末石が開ける。
末石「何度来ていただいても無駄ですので、お引き取りを」
弁護士「困るのはそちらだと思いますけどね」
弁護士、横柄にオフィスの中を歩いて出ていく。
気にしていた社員たち、気まずそうに目をそらす。
末石「……はぁーっ」
ため息をついて社長室へ戻ろうとし、檜垣と目があう。
檜垣「よっ!」
檜垣、片手をあげてこの場にふさわしくないほど明るく挨拶する。
末石「檜垣」
檜垣「なんか面白いことになってんだってな」
末石の肩を抱き、檜垣が社長室へ入っていく。
末石が小さく頷き、夏音も頷き返して席を立つ。
○SE社長室
夏音「どうぞ」
自分の分も含めて淹れてきたコーヒーを夏音がテーブルの上に置く。
檜垣「俺が聞いた話だとさ。天倉さん、四菱地所の会長補佐ってことになってるらしい。でも事実上の会長で、次の取締役会で承認される見通しだって」
末石「よくそんなこと知ってるな」
檜垣「それなりにルートがあるんだよ」
と、ニヤリと笑ってコーヒーを飲む。
檜垣「それで末石さんはどうするの? このまま、社長不在もマズいでしょ。もうすでにこの話、広まってるよ? 俺の耳にも入ってるくらいだし」
末石「わかってる。取引先からも問い合わせがきているしな」
檜垣「末石さんは経営者としては立派だけど、カリスマ性とかそんなのがないからなー」
末石「ほざけ」
と、少しだけおかしそうに笑う。
檜垣「そしてこっちは夏音ちゃんに悪い知らせ。会長に正式就任と同時に、婚約を発表するらしいよ? さあどうする?」
試すように檜垣が笑う。
緊張から夏音が檜垣を見つめたままごくりと唾を飲み、おもむろに口を開く。
夏音「私は――」
千寿子「さあさ、行きましょう」
天倉「ちょっと待ってください! 夏音!」
抵抗虚しく車に押し込められ、連れ去られる天倉を夏音は呆然と見ている。
夏音M「えっ、どういうこと!?」
○同日天倉家
夏音が不安そうに電話をかけている。
携帯アナウンス「おかけになった電話は……」
夏音「出ない……」
はぁーっと、夏音が大きなため息をつく。
携帯画面の時計はすでに、お昼を過ぎている。
夏音「どうしたらいいんだろう……」
夏音、落ち着かず家の中をうろうろする。
が、解決策は見つからない。
夏音「待ってるしかないのかな……」
○天倉家(朝)
ぼーっと歯を磨いている夏音。
夏音N「結局、昨日の夜、有史さんは帰ってこなかった。電話も繋がらないし、どうしていいのかわからない」
夏音「会社に行って末石専務に相談してみよう……」
○SEオフィス
なぜかざわついているオフィス。
社員女「これからどうなるの?」
社員男「まさか、会社がなくなるとかないよな」
不穏な空気に夏音、ますます不安になる。
千寿子「古海さん!」
と、嬉しそうに笑いながら千寿子が社長室から出てくる。
末石「千寿子さん!」
末石がその後ろを追ってくる。
千寿子「有史さんがとうとう、会社を継ぐ決心をしてくれたの」
夏音の両手を取って千寿子は喜んでいる。
夏音「え……」
顔面蒼白で立ち尽くす夏音。
末石「千寿子さん。その話はこちらで」
末石、千寿子を社長室へ促し、夏音にも来るように頷く。
夏音、ふらふらとその後に続く。
○SE社長室
千寿子の前に夏音と末石が並んで座っている。
千寿子「有史さんがね、とうとう会社を継いでくださるって。和之さんももうお年ですから、そろそろ引退したいですしね」
千寿子は嬉しくてたまらないのか、にこにこと笑いながら話している。
末石は苦虫を噛み潰したような顔で、夏音は茫然自失でそれを聞いている。
千寿子「だいたい、こんなちっぽけな会社、有史さんには似合わないんですよ」
末石「こほん」
不快そうに末石が咳払いし、千寿子が一瞬だけ怯む。
千寿子「ま、まあ、こちらの会社は末石さんがいらっしゃるから、有史さんがいなくてもなんとでもなるでしょ。潰れたところで困る人もいらっしゃらないし」
末石「こほん」
末石が千寿子を睨む。
千寿子、不快そうな顔をするものの、すぐに気を取り直す。
千寿子「古海さんとも別れて、昨日お見合いした代議士先生のお嬢様と結婚なさるそうです。もちろん、古海さんにはそれなりにさせていただきます」
テーブルの上に千寿子が分厚い封筒を滑らせる。
夏音「……これはいったい、どういうことですか」
夏音、怒りで震えながら声を絞り出す。
千寿子「見ておわかりにならないの? 慰謝料です。これで足りないというのなら……」
と、さらにバッグの中から封筒を出そうとする。
夏音「ふざけないで!」
夏音がテーブルの上の封筒を払い落とす。
夏音「こんなもので私が納得するとでも!? 有史さんと話をさせて!」
千寿子「それはできない相談だわ」
千寿子は冷静に落ちた封筒を拾い、バッグの中へしまう。
千寿子「有史さんはもう二度と、貴方とはお会いにならないそうです」
夏音の前へ千寿子が天倉の結婚指環を滑らせる。
夏音「……!」
真っ白な顔でそれを見つめる夏音。
夏音M「嘘。嘘。そんなはずない」
千寿子「あの家も早々に出ていってください。処分しますので」
勝ち誇って千寿子が笑う。
夏音M「だって有史さんは、ふたりで幸せになろうって言ってくれた」
千寿子「あとの手続き等、弁護士に任せてありますので。それでは」
千寿子が立ち上がり、末石がドアを開ける。
夏音M「残りの人生は私と生きていくって」
末石「古海、大丈夫か」
末石から声をかけられ、ようやく夏音が顔を上げる。
夏音「末石専務……」
末石「悪いが、状況を確認させてくれ。天倉とは別れたんじゃなかったのか?」
どさっと末石はソファーに座り、前屈みなって夏音に聞いてくる。
夏音「その、いろいろあってよりを戻したっていうか……。やっと互いに自分の気持ちに気づいて、その、偽装じゃなくてちゃんとした夫婦になったはずだったんです」
末石「うん、まあ、なんとなくわかった。それがなんでこんなことになってる?」
夏音「別れたんだったら見合いを、って実家に呼びだされたんです。でも有史さんは私と別れたりしないって言ってくれて。けどお父さんによく考えるように言われて……。そしたら昨日の朝、お母さんが強引に有史さんを見合いに連れていってそれっきり……」
末石「……はぁーっ」
ため息をついて末石があたまを抱える。
末石「天倉がおとなしく言うことを聞くはずがない。なのに音沙汰がないのはなにか考えがあってなのか……」
夏音「末石専務も連絡つかないんですか」
末石「繋がりすらしない」
夏音・末石「……はぁーっ」
末石「とにかく、どうにか連絡取れないかやってみる。早まったことだけはしないように」
夏音「はい」
と、硬い顔で頷く。
○天倉家(夜)
夏音「有史さん……」
真っ暗な寝室で、有史のシャツを羽織り、枕を抱いて座っている夏音。
夏音「別れるとか嘘ですよね……」
ぎゅっと強く、天倉の指環を握り込む。
夏音「なんで私は、なにもできないんだろう……」
ぎゅっと枕を抱いて夏音、小さくなる。
○SEオフィス
社長室で末石と弁護士が話しているのを不安そうに気にしている社員たち。
夏音もちらちらと中を見ている。
檜垣「夏音ちゃん!」
夏音「うわっ!」
いきなり肩を叩かれ夏音、振り返る。
夏音「檜垣さん、どうしたんですか? しばらくはこっちには来ないって……」
気まずそうに話す夏音。
檜垣「ん? なんか面白いことになってるらしいし? 超特急で片付けて見学に来た」
檜垣、ちらっと社長室の中を見て、意地悪そうに笑う。
夏音「面白いこと……」
複雑な顔で夏音が黙る。
檜垣「おっ、出てきた」
社長室のドアを末石が開ける。
末石「何度来ていただいても無駄ですので、お引き取りを」
弁護士「困るのはそちらだと思いますけどね」
弁護士、横柄にオフィスの中を歩いて出ていく。
気にしていた社員たち、気まずそうに目をそらす。
末石「……はぁーっ」
ため息をついて社長室へ戻ろうとし、檜垣と目があう。
檜垣「よっ!」
檜垣、片手をあげてこの場にふさわしくないほど明るく挨拶する。
末石「檜垣」
檜垣「なんか面白いことになってんだってな」
末石の肩を抱き、檜垣が社長室へ入っていく。
末石が小さく頷き、夏音も頷き返して席を立つ。
○SE社長室
夏音「どうぞ」
自分の分も含めて淹れてきたコーヒーを夏音がテーブルの上に置く。
檜垣「俺が聞いた話だとさ。天倉さん、四菱地所の会長補佐ってことになってるらしい。でも事実上の会長で、次の取締役会で承認される見通しだって」
末石「よくそんなこと知ってるな」
檜垣「それなりにルートがあるんだよ」
と、ニヤリと笑ってコーヒーを飲む。
檜垣「それで末石さんはどうするの? このまま、社長不在もマズいでしょ。もうすでにこの話、広まってるよ? 俺の耳にも入ってるくらいだし」
末石「わかってる。取引先からも問い合わせがきているしな」
檜垣「末石さんは経営者としては立派だけど、カリスマ性とかそんなのがないからなー」
末石「ほざけ」
と、少しだけおかしそうに笑う。
檜垣「そしてこっちは夏音ちゃんに悪い知らせ。会長に正式就任と同時に、婚約を発表するらしいよ? さあどうする?」
試すように檜垣が笑う。
緊張から夏音が檜垣を見つめたままごくりと唾を飲み、おもむろに口を開く。
夏音「私は――」