【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第19話 そのプロポーズ、認められないな
○SE社長室
にこにこと笑っている檜垣と、困惑している夏音、あたまを抱えている末石。
夏音「えーっと、檜垣さんが社長になったっていうのは……」
檜垣「俺がスカイエンドの筆頭株主になったの。それで、社長もやるって末石さんを説き伏せた」
末石「……説き伏せられた覚えはないんだがな」
はぁーっ、と末石が疲労の濃いため息をつく。
夏音「そのー、檜垣さんはお忙しいのにスカイエンドの社長まで大丈夫なんですか……?」
檜垣「夏音ちゃん優しい!」
夏音「ぐえっ」
思いっきり檜垣に抱きつかれ、夏音が奇声を発する。
檜垣「まあね、正直言ってそんな時間はない。でもこれは、天倉さんを焦らせる策だし」
末石「天倉を焦らせる?」
檜垣「次は……そうだな。俺と夏音ちゃんの婚約披露パーティでもやろうか」
檜垣、夏音に向かってウィンクする。
夏音「ええっ!?」
檜垣「どんな事情があるのか知らんけど。好きな女を傷つけて泣かせるなんて許されるわけがない。大いに困らせてやろうぜ」
檜垣、ニヤリと笑う。
○ドレスショップ
以前、天倉と一緒に来たドレスショップ。
今日は檜垣がドレスを選んでいる。
夏音「ここまでする必要があるんですかね……」
檜垣「ある」
と、妙に真剣な顔でドレスを選んでいる。
檜垣「貴方色に染まりますか、貴方以外の色に染まりませんか……」
黒と白のドレスを檜垣が見比べている。
夏音「あのー、檜垣さん? ウェディングドレスじゃないので……」
檜垣「そうだけど! 俺にとってはそれくらい重要!」
夏音「はぁ……」
と、諦める。
檜垣「うん、黒にしよう、黒に。俺はそっちの方が好み」
夏音「……そうですか」
苦笑いで渡された数点の、黒いドレスを受け取り、試着室へ入る。
夏音「どうですか……?」
おずおずと夏音、檜垣の前へ出る。
檜垣「夏音ちゃん、か、わ、いい!!」
大興奮で檜垣が抱きついてきて、夏音は苦笑いしかできない。
檜垣「でもちょっと痩せた?」
夏音「そうかもしれません」
と、笑って誤魔化す。
檜垣「そっか。まあ、そういうこともあるよな。それよか他のも着てみせて、早く、早く」
夏音「はいはい」
檜垣に急かされ、夏音は苦笑い。
夏音M「あれって気遣ってくれたのかな……?」
数枚試着してその中の一枚に決め、店をあとにする。
○スリール・ドゥ・デエス(夜)
食事をしながら相談している夏音と檜垣。
檜垣「会場はここでいいだろ。指環はこの間のがあるし……」
夏音「本当にやるんですか?」
檜垣「当たり前だろ。夏音ちゃんはあの、いつも余裕ぶっこいてる天倉さんが慌てふためく様、見たくない?」
夏音「そりゃ……」
檜垣「だろ?」
と、したり顔で頷く。
檜垣「料理はどうする? 一応、いま食べているのがいつもレストランウェディングなんかのときに出しているメニューなんだけど」
夏音「なんか結婚式の相談をしているみたいですね……」
檜垣「夏音ちゃんとの結婚式、か」
檜垣、ぽつりと淋しそうに呟く。
檜垣「俺の中ではそうなっているはずだったんだけどな。……なあ、夏音ちゃん。いまからでも遅くない、やっぱり俺にしない?」
真剣に檜垣が夏音を見つめる。
夏音、黙って首を振る。
檜垣「でもさ」
夏音「檜垣さんと結婚したら幸せになれるのはわかってるんです」
檜垣「ならなんで」
夏音「知ってますか? 有史さん、ひとりでごはん食べるの嫌なんです。淋しいからって。私がその孤独を埋めるって決めたから」
檜垣「……そうか」
と、淋しそうに笑う。
檜垣「なら、夏音ちゃんのために天倉さんの目を覚ませないとな」
夏音「なにからなにまでお世話になります」
夏音、深々とあたまを下げる。
○SE社長室
夏音と檜垣、末石の3人で作戦会議。
檜垣「どうも天倉会長……って天倉さんの親父さんな、最近受けた健康診断で腫瘍が見つかったらしい」
夏音「えっ、それって大変じゃないですか!」
檜垣「いやそれがさ、良性のポリープで、一泊入院で済むくらいものだったみたい。でも親父さんというよりお袋さんが」
末石「この先を悲観、か。天倉、ひとりっ子だしな」
檜垣「金持ちってわかんねーよな」
と、ソファーの背に身体を預ける。
末石「というかよく、そんなことがわかったな」
檜垣「だから俺、末石さんと違って顔が広いし」
檜垣、ニヤッと笑う。
夏音「でもあんなに会社を継ぐの嫌がっていたのに、なんで」
末石「……カドの建設地」
考えていた末石、思いついたかのように顔を上げる。
檜垣「正解。俺の店、カド・ドゥ・ディユは四菱がリゾート型介護ホーム建築を考えていた場所だ。まあ、先に手を挙げたのは俺だったけどな」
末石「でも揉めて最終、天倉があたまを下げる形で落ち着いた」
檜垣「たぶん、あんときの恩を着せられているんだと思う。……すまん、夏音ちゃん。俺のせいだ」
檜垣、真摯に夏音へあたまを下げる。
夏音「あたまを上げてください。檜垣さんのせいじゃないですから」
夏音、笑って檜垣を慌てて止める。
檜垣「いや、俺のせいだ。といってもいまさら、計画を白紙に戻せねーけどな。でもその分、いろいろやらせてもらう」
夏音「よろしくお願いします」
深々と夏音が檜垣にあたまを下げる。
檜垣「よせや。じゃ、当日の話なんだけど……」
照れた檜垣、話を変える。
○天倉家
じっと、深里の遺影を見ている夏音。
遺影の中の深里は幸せそうに笑っている。
夏音「きっと、深里さんが助けてくれるから大丈夫……ですよね?」
と、語りかける。
夏音「絶対に有史さんとこの家に帰ってきます。だから、見守っていてください」
立ち上がった夏音、家の中を見渡す。
夏音M「よくわからないままはじまった偽装結婚生活だったけど、有史さんは私を可愛がってくれた。好きだって、愛してるって言ってくれた。だからきっと、大丈夫――」
納得するように頷き、夏音は家を出る。
○スリール・ドゥ・デエス(夜)
飾り付けられ、着飾った男女がざわめく店内。
控え室で、ドレス姿で不安そうに座っている夏音。
――コンコン。
ノックの音がして慌てて夏音はドアへ駆け寄る。
檜垣「来てる。婚約者になる女と一緒に」
夏音「そう、ですか……」
ほっとしたような、落胆したような複雑な顔をする夏音。
檜垣「そう心配するな、絶対上手くいくって」
がははと豪快に笑いながら、夏音のあたまを檜垣が撫で回す。
夏音「あっ、髪が乱れますから!」
と、むくれる。
檜垣「うん、少しくらい怒ってる方がいい。……じゃあ、いくぞ」
夏音「はい」
檜垣から差し出された手に、夏音が自分の手をのせる。
ドアの前にふたり、並んで立つ。
檜垣「……大丈夫だ」
夏音「……はい」
夏音、小さく檜垣に頷き返す。
司会「では、本日の主役の登場です!」
拍手と共にドアが開かれる。
腕を組んで夏音と檜垣、入場。
遠くに天倉の姿を認めるが、夏音と目があうと逸らす。
一瞬、傷ついた顔をしたものの、檜垣から脇をこつかれ、すぐに夏音は作り笑顔を浮かべる。
立食パーティで歓談中もちらちらと天倉を夏音は確認してしまう。
婚約者になるらしい若い女性と一緒に並んで天倉は歓談している。
また目があったが、すぐに逸らされる。
司会「では本日のメインイベント、檜垣社長の公開プロポーズです!」
予定通りに開けられた中央で、夏音の前に檜垣が跪く。
檜垣「夏音。俺と結婚してくれ」
差し出される、婚約指環。
檜垣「これを受け取ってくれたら、俺はもう二度と、なにがあっても夏音を離さない」
夏音「……え?」
指環に手を伸ばしかけていた夏音、動きが止まる。
夏音M「なにそれ、そんなの打ち合わせにない」
檜垣「一度振られた俺だけど。またこうやってチャンスをくれてありがとう。今度は絶対に離さないから」
檜垣が真剣に夏音を見つめる。
夏音M「これを受け取ったら、本当に有史さんを忘れて檜垣さんと結婚?」
檜垣「夏音」
夏音、檜垣を見つめたまま動けない。
?「そのプロポーズ、認められないな」
にこにこと笑っている檜垣と、困惑している夏音、あたまを抱えている末石。
夏音「えーっと、檜垣さんが社長になったっていうのは……」
檜垣「俺がスカイエンドの筆頭株主になったの。それで、社長もやるって末石さんを説き伏せた」
末石「……説き伏せられた覚えはないんだがな」
はぁーっ、と末石が疲労の濃いため息をつく。
夏音「そのー、檜垣さんはお忙しいのにスカイエンドの社長まで大丈夫なんですか……?」
檜垣「夏音ちゃん優しい!」
夏音「ぐえっ」
思いっきり檜垣に抱きつかれ、夏音が奇声を発する。
檜垣「まあね、正直言ってそんな時間はない。でもこれは、天倉さんを焦らせる策だし」
末石「天倉を焦らせる?」
檜垣「次は……そうだな。俺と夏音ちゃんの婚約披露パーティでもやろうか」
檜垣、夏音に向かってウィンクする。
夏音「ええっ!?」
檜垣「どんな事情があるのか知らんけど。好きな女を傷つけて泣かせるなんて許されるわけがない。大いに困らせてやろうぜ」
檜垣、ニヤリと笑う。
○ドレスショップ
以前、天倉と一緒に来たドレスショップ。
今日は檜垣がドレスを選んでいる。
夏音「ここまでする必要があるんですかね……」
檜垣「ある」
と、妙に真剣な顔でドレスを選んでいる。
檜垣「貴方色に染まりますか、貴方以外の色に染まりませんか……」
黒と白のドレスを檜垣が見比べている。
夏音「あのー、檜垣さん? ウェディングドレスじゃないので……」
檜垣「そうだけど! 俺にとってはそれくらい重要!」
夏音「はぁ……」
と、諦める。
檜垣「うん、黒にしよう、黒に。俺はそっちの方が好み」
夏音「……そうですか」
苦笑いで渡された数点の、黒いドレスを受け取り、試着室へ入る。
夏音「どうですか……?」
おずおずと夏音、檜垣の前へ出る。
檜垣「夏音ちゃん、か、わ、いい!!」
大興奮で檜垣が抱きついてきて、夏音は苦笑いしかできない。
檜垣「でもちょっと痩せた?」
夏音「そうかもしれません」
と、笑って誤魔化す。
檜垣「そっか。まあ、そういうこともあるよな。それよか他のも着てみせて、早く、早く」
夏音「はいはい」
檜垣に急かされ、夏音は苦笑い。
夏音M「あれって気遣ってくれたのかな……?」
数枚試着してその中の一枚に決め、店をあとにする。
○スリール・ドゥ・デエス(夜)
食事をしながら相談している夏音と檜垣。
檜垣「会場はここでいいだろ。指環はこの間のがあるし……」
夏音「本当にやるんですか?」
檜垣「当たり前だろ。夏音ちゃんはあの、いつも余裕ぶっこいてる天倉さんが慌てふためく様、見たくない?」
夏音「そりゃ……」
檜垣「だろ?」
と、したり顔で頷く。
檜垣「料理はどうする? 一応、いま食べているのがいつもレストランウェディングなんかのときに出しているメニューなんだけど」
夏音「なんか結婚式の相談をしているみたいですね……」
檜垣「夏音ちゃんとの結婚式、か」
檜垣、ぽつりと淋しそうに呟く。
檜垣「俺の中ではそうなっているはずだったんだけどな。……なあ、夏音ちゃん。いまからでも遅くない、やっぱり俺にしない?」
真剣に檜垣が夏音を見つめる。
夏音、黙って首を振る。
檜垣「でもさ」
夏音「檜垣さんと結婚したら幸せになれるのはわかってるんです」
檜垣「ならなんで」
夏音「知ってますか? 有史さん、ひとりでごはん食べるの嫌なんです。淋しいからって。私がその孤独を埋めるって決めたから」
檜垣「……そうか」
と、淋しそうに笑う。
檜垣「なら、夏音ちゃんのために天倉さんの目を覚ませないとな」
夏音「なにからなにまでお世話になります」
夏音、深々とあたまを下げる。
○SE社長室
夏音と檜垣、末石の3人で作戦会議。
檜垣「どうも天倉会長……って天倉さんの親父さんな、最近受けた健康診断で腫瘍が見つかったらしい」
夏音「えっ、それって大変じゃないですか!」
檜垣「いやそれがさ、良性のポリープで、一泊入院で済むくらいものだったみたい。でも親父さんというよりお袋さんが」
末石「この先を悲観、か。天倉、ひとりっ子だしな」
檜垣「金持ちってわかんねーよな」
と、ソファーの背に身体を預ける。
末石「というかよく、そんなことがわかったな」
檜垣「だから俺、末石さんと違って顔が広いし」
檜垣、ニヤッと笑う。
夏音「でもあんなに会社を継ぐの嫌がっていたのに、なんで」
末石「……カドの建設地」
考えていた末石、思いついたかのように顔を上げる。
檜垣「正解。俺の店、カド・ドゥ・ディユは四菱がリゾート型介護ホーム建築を考えていた場所だ。まあ、先に手を挙げたのは俺だったけどな」
末石「でも揉めて最終、天倉があたまを下げる形で落ち着いた」
檜垣「たぶん、あんときの恩を着せられているんだと思う。……すまん、夏音ちゃん。俺のせいだ」
檜垣、真摯に夏音へあたまを下げる。
夏音「あたまを上げてください。檜垣さんのせいじゃないですから」
夏音、笑って檜垣を慌てて止める。
檜垣「いや、俺のせいだ。といってもいまさら、計画を白紙に戻せねーけどな。でもその分、いろいろやらせてもらう」
夏音「よろしくお願いします」
深々と夏音が檜垣にあたまを下げる。
檜垣「よせや。じゃ、当日の話なんだけど……」
照れた檜垣、話を変える。
○天倉家
じっと、深里の遺影を見ている夏音。
遺影の中の深里は幸せそうに笑っている。
夏音「きっと、深里さんが助けてくれるから大丈夫……ですよね?」
と、語りかける。
夏音「絶対に有史さんとこの家に帰ってきます。だから、見守っていてください」
立ち上がった夏音、家の中を見渡す。
夏音M「よくわからないままはじまった偽装結婚生活だったけど、有史さんは私を可愛がってくれた。好きだって、愛してるって言ってくれた。だからきっと、大丈夫――」
納得するように頷き、夏音は家を出る。
○スリール・ドゥ・デエス(夜)
飾り付けられ、着飾った男女がざわめく店内。
控え室で、ドレス姿で不安そうに座っている夏音。
――コンコン。
ノックの音がして慌てて夏音はドアへ駆け寄る。
檜垣「来てる。婚約者になる女と一緒に」
夏音「そう、ですか……」
ほっとしたような、落胆したような複雑な顔をする夏音。
檜垣「そう心配するな、絶対上手くいくって」
がははと豪快に笑いながら、夏音のあたまを檜垣が撫で回す。
夏音「あっ、髪が乱れますから!」
と、むくれる。
檜垣「うん、少しくらい怒ってる方がいい。……じゃあ、いくぞ」
夏音「はい」
檜垣から差し出された手に、夏音が自分の手をのせる。
ドアの前にふたり、並んで立つ。
檜垣「……大丈夫だ」
夏音「……はい」
夏音、小さく檜垣に頷き返す。
司会「では、本日の主役の登場です!」
拍手と共にドアが開かれる。
腕を組んで夏音と檜垣、入場。
遠くに天倉の姿を認めるが、夏音と目があうと逸らす。
一瞬、傷ついた顔をしたものの、檜垣から脇をこつかれ、すぐに夏音は作り笑顔を浮かべる。
立食パーティで歓談中もちらちらと天倉を夏音は確認してしまう。
婚約者になるらしい若い女性と一緒に並んで天倉は歓談している。
また目があったが、すぐに逸らされる。
司会「では本日のメインイベント、檜垣社長の公開プロポーズです!」
予定通りに開けられた中央で、夏音の前に檜垣が跪く。
檜垣「夏音。俺と結婚してくれ」
差し出される、婚約指環。
檜垣「これを受け取ってくれたら、俺はもう二度と、なにがあっても夏音を離さない」
夏音「……え?」
指環に手を伸ばしかけていた夏音、動きが止まる。
夏音M「なにそれ、そんなの打ち合わせにない」
檜垣「一度振られた俺だけど。またこうやってチャンスをくれてありがとう。今度は絶対に離さないから」
檜垣が真剣に夏音を見つめる。
夏音M「これを受け取ったら、本当に有史さんを忘れて檜垣さんと結婚?」
檜垣「夏音」
夏音、檜垣を見つめたまま動けない。
?「そのプロポーズ、認められないな」