距離感
王子が笑うと。

胸がギュッと痛くなる。

電車に乗り込むと、車内はそれほど混雑していなかった。

「あのさー、勝又さん。オレのこと福王寺さんって呼ぶけど。王子でイイからねー」

「え?」

「福王子って名前、長いでしょー。皆と同じように呼んでいいからね」

「…はい。じゃあ、私もあだ名でいいですよ」

「えっと、カッチャンだっけ? みんなに呼ばれているのって」

「そうですねー、まぁ、ふくお…王子の呼びやすいように自由にどうぞ。カツ子でもいいですよ」

「うん。じゃあ今日からカッチャンね」

王子は次の駅を確認するように表示板を見ると。

「次、降りるわ」

と言って。あっという間に降りて行った。
< 11 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop