距離感
これぞ、本当に夢だなって思った。

それくらい、リアリティーがないのだ。

王子と居ると、非日常を味わえる感覚に陥る。

きっと、皆。好きになってしまうんだろうな。

あのカオとあの雰囲気に。

とはいえ、翌朝、(かなめ)さんと顔を見合わすのはつらかったけど。

意外とツンツンしていなかった。

(心が広いんだなー)

と感心してしまう。

ま、他の女性と2人きりが嫌だったら、本人も残業するよね。

気にしないことにする。

仕事は繁忙期のお陰で。

一日が早い。

まさか、自分が事務職で働くなんて思わなかったなー。

時計の針が20時になって。

帰り支度をする。

エントランスに出ると、今日は王子のほうが一足早かった。

「お疲れー」

「お疲れ様です」

王子の笑顔を見ると、癒される。

「カッチャン、仕事慣れた?」

「うーん…、まぁ慣れたんですかね」

たわいもない話をしながら、駅に向かって。

電車に乗って。

昨日、王子が降りた駅に近づく。

「じゃあ、お疲れ様です」

と頭を下げると。

王子はきょとんとした顔で。

「え、俺。降りないよ」

と言った。

ぷしゅー。

音を立てて、ドアが閉まる。

「昨日はね、友達のところに寄ったから」

「え、じゃあ最寄り駅どこなんですか?」

「△△」

「…ハイ?」

その駅は自分の最寄り駅だった。

…まさかの。

< 12 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop