距離感
ご近所付き合いがあるわけでもない。

会社は慣れてきたとはいえ、そこまで親しい人はいない。

それとなく、自分の教育係である香川さんに「香川さんって料理しますぅ?」と尋ねると。

「私、一切しないのよね」とバッサリと言われた。

会社にわざわざ野菜持ってくるのも、嫌だし。持って帰るのも嫌だろうな。

そこまで、私は社交的じゃないし。

もう、弟に送り返してやろうかと思っていると。

ふと、王子が脳裏に浮かぶ。

仕事を終えて。

それとなく、「王子はご家族で暮らしているんですよね?」と探りをいれる。

「そうだよ。3人暮らし」

「じゃあ、野菜って食べますぅ?」

「野菜? そりゃ、人間だから食べるでしょ」

また、よくわからない切りかえしをされ。

実は…と事情を話す。

すると、王子は「弟、農業って凄いね!」と目を輝かせた後。

「あ、でも…俺の母親。料理得意じゃなくてさ」

「ははは。そうですよね。野菜もらっても困りますよね」

乾いた笑いが虚しく響く。

すると、王子は「あ」と声を漏らす。

「思ったんだけど。嫌じゃなったら、カッチャンが俺のうちに来て料理すれば良いんじゃないのかな?」

「ハイ?」
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