距離感
約束した当日。

ケータイが鳴ると。

王子からのメッセージが表示される。

「家の前着いたよ♪」

私は、野菜が入った袋を持って。部屋を出て階段を駆け下りる。

近所だから、一人で行けるのに「野菜重たいから迎えに行くよ」と言われ。

王子がわざわざ迎えに来てくれた。

「こんばんはー」と言ってニッコリ笑った王子を見て。

「さらぺた!?」

と、言う言葉が出た。

そういえば、王子の私服姿を見るのが初めてだ。

王子はシンプルに、黒いポロシャツとジーパンという姿なんだけれど。

何より、髪の毛がサラサラでおろしている。

会社にいるときは、髪の毛立ててカッコイイ髪型だけど。

今はコレでカッコイイ。

無言で眺めていると「サラペタって何? 今日のご飯?」と王子が訊いてくるので。

「いえ、今日はシチューです。行きましょう」

と、歩き出す。

王子が「持つよ」と言って野菜の入った袋を持ってくれる。

あれこれ考えた結果、シチューが無難だと思ったからだ。

梅雨に入ったというのに、シチュー…(笑)

凝ったものは作ろうと思えば作れるけど、ハードルは上げないほうが良いのだ。

「ただいまー」

「お邪魔します」

玄関のドアを開けると「おかえりー」と言って。

女の人が出てきて。

私を見て、「お」と声を出すと。

「ごゆっくりー」と言って、すぐに去っていく。

王子は物凄い速さで、こっちを見て、

「先に言っておくけど、あの人母親だからね」

「お母さん?」

「みんな、勘違いするから先に言っておいた」

「ああ、そういうことですか」

靴を脱ぐと王子はスリッパを出してくれた。

「福王寺家はね、何故か年相応に見られなくて有名なの」

今日、家にいるのは王子のご両親だと聞かされていたから。

多分、お母さんなんだとわかったけど。

何も聞かされずにいたら。

確かに、お姉さんか彼女さんかなと思うくらい。

王子のお母さんは若く見えた。

そして、綺麗な女の人だった。

「じゃあ、作りますか」

家から持ってきたエプロンを着けて、手を洗っていると。

王子がじぃーとこっちを見て。

「手伝おうか?」

と言ってきたので。

「大丈夫です!」

と答えた。
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