距離感
本当に、店を手伝うのは今回きりにしようと思った。

やっぱり兄貴は大嫌いだ。

我慢して。お盆の忙しさを乗り切って。

家に帰った。

あまりにも、ムカついたから。レイカに連絡して、飲みにいけないかと誘った。

レイカは「渋谷まで来てくれるならいいよー」とすぐに返事をくれたので。

電車に乗ってレイカと合流して。

居酒屋に入った。

レイカは、ホテル時代に出逢った同い年のトモダチだ。

ずっと、水商売をしているので見た目はケバケバしいけど。

考え方は、ほんとに全うでしっかりしているから驚きだ。

「何? 実家帰ったの?」

「うん。本当にムカついたわ。クソ兄貴」

私はビール、レイカはレモンサワーという飲み物のチョイス。

レイカに近況報告をしたり、実家での兄貴の出来事を話しているうちに。

少しずつ、落ち着いてきた。

ビールは何杯目なのだろうか。おかわりをして。

おしぼりでテーブルについた水滴を拭く。

レイカは聞き上手だ。

ギラギラのパッチリした目でじぃーとこっちを見て。

「で、恋してるのかい?」

と言った。

「いやー。その人。12歳も上でー。オッサンだよー」

「オッサンって。あたしの元ダンナが10個上って知ってるでしょー。そういうこと言うのやめて」

レイカがさらりと元旦那さんの話題をする。

辛くないのかな…と思ったけど。

レイカの強さも知ることが出来る気がする。

「ね。その人の写真ないの?」

「うーん。会社のHP(ホームページ)にあったような」

スマホで探すと小さく、王子の写真があった。

それを見せると、レイカは「なんだ、フツーじゃん」と言い放った。

「いやいや、実物目にしたら、ほんとにイケメンだからね!!」

「何、ムキになってんの? やっぱ好きなんじゃん」

「やっぱり、これは恋なんですかねー」
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