距離感
がやがやと騒がしい居酒屋。

遠くからオッサン集団の笑い声が聞こえる。

レイカはまた、じぃーと私を見た後。

「ちょっと、マヂな話していいかい?」

「何さ」

「結婚を一度、失敗しているアタシから言わせてもらうと。恋愛と結婚は違うものだと思うのよ」

レイカは高3の時に予備校の先生と恋に落ちて妊娠した。

高校を中退して、レイカはその人と結婚した。

けど、子供は生まれてすぐに亡くなってしまったらしい。

そんな重大な話をどうして、私にしてくれたのか。

レイカは「あんたって話しやすい顔してるから」と言っていたけど・・・。

「恋愛は相手の欠点を受けいれることが出来るし。とにかくハッピーなのに。結婚は相手の欠点が大きく見えてしまう。恋愛は好きで通るけど、結婚は好きだけじゃ通らない」

「どういうこと?」

「例えば、イケメンだけど貧乏な男。ブッサイクだけど経済力のあるお金持ち男のどっちかと結婚しろって言われたら、どうする?」

「何、その極端な質問!?」

レイカはグッとカシスオレンジを飲み干すと。

「柚月はその先を考えたことある?」

「哲学的すぎてわかないって」

全く、レイカの言うことが理解できない。

「イケメンで性格も良くて、経済力もあって…。すべてがパーフェクトな男にはなかなか巡り合えないって話よ」

「そりゃ、そうでしょ」

「ただ、アタシは思うの。相手のことを好きすぎても絶対に上手くいかないのよ」

「…そうだね。それはわかる気がする」

レイカの言葉が胸に刺さった気がする。

「あれこれ考えるより。自分の直感じゃない? 相手とこの先も一緒にいたいと思うか、そうでないかよ」
< 29 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop