距離感
時刻は14時過ぎだったと思う。

資料を整理したり、ファイリングしていたら。

ドアの向こうから、「きゃー」という女の人の悲鳴が聞こえて。

「誰か、来てくれる!?」

次にそんな声が聞えた。

何だ、何だと近くにいた人たちがドアを開けてエレベーターまでの通路へ向かう。

私もそろそろと声のほうまで向かった。

てっきり、ネズミか虫でも出たのかと思った。

ちょうど、エレベーター近くに人だかりが出来ていて。

「大丈夫、ねぇ?」

と声をかけている人がいる。

見ると、そこにいたのは。

ぐったりと倒れ込んだ要さんと。

要さんに声をかける香川さんだった。

ビックリして固まっていると。

近くにいた男の人が、要さんをお姫抱っこした。

それが、すぐに王子だと気づいた。

「医務室まで運びます。香川さんもついてきてもらえますか」

「勿論」

羞恥を感じることもなく。

軽々と要さんをお姫様抱っこして歩き出す王子。

その瞬間、本当にスローモーションになったのではないかというくらい。

時間が小刻みになった。

目の前を王子が通り過ぎていく。

その時、抱きかかえられた要さんは目を開けて。

ニヤリと王子の顔を見て笑ったのだ。

そしてすぐさま目を閉じた。

「ぁ…」

声が出なかった。
< 36 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop