距離感
年末年始
王子に対して、失礼なことを言ってしまい。

謝らなきゃいけないのに。

王子は気にせず、それどころか真剣に自分の気持ちについて考えてくれた。

まさか、「妹」という言葉が出てくるなんて…。

私は安心したのか?

いや、どこかで。やっぱり、モヤモヤしていた。

あれだけ、仲良しで妹なのか…。

これ以上は怖くて、王子に質問できなかった。

要さんが不在のまま、一日一日と過ぎて行って。

忘年会の日がやってきた。

20人以上の社員が集まって。

わーわーと叫び喋っている。

「乾杯」

という、合図と共に。

それぞれ、お喋りしたり席を移動して。とにかく楽しそうに喋っている。

飲み会は好きだ。

普段、喋れない人と色々と話せるから。

「カッチャンって幾つ?」

要さんのファンのおじさん達に話しかけられる。

年齢を言うと。

「出身地はどこ?」

と、訊かれ。「静岡」と答える。

「血液型は?」

と、訊かれ。秘密ですと言って笑ってごまかす。

「前の会社では何していたの?」

と、訊かれ「事務職です。人間関係が嫌になってぇ」と可愛く返事をする。

「お父さんとお母さんは静岡で何しているの?」

と、そこまで訊くんだ…と思ったが。

「父はサラリーマンです。母は専業主婦? あ、スーパーでレジ打ちのパートしてるって言ってました」

すらすらと、嘘が出た。

どうしても、過去のことは知られたくなかった。

「カッチャン、お酒強いねぇ」

既に真っ赤になっているオジサン達に対して。

ニコニコしながら、ビールを飲む自分だ。

(王子はどこ行ったんだろう)

きょろきょろと見渡すと。

端っこで、オバチャン達4~5人に囲まれていた。

相変わらずモテるなぁー。

「ねぇ、王子ぃ。一緒に写真撮りましょうよ」

スマホを取り出した一人のオバチャン。

「あ、すいません。僕、写真苦手なんですよ」

と、言ってやんわりと断る王子。

オバチャン達が今だけ、乙女になっているように見えた。
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