距離感
「カッチャン、もうすぐ着くよ」

意識を失って10分ぐらいか。

王子の声に目を覚ます。

思いっきり寄りかかっていたので

「あ、ごめんなさい」

と言って頭を離すが、

自分の手が何かを握っていることに気づき。

「えぇぇぇ」

と言って、王子の手を離した。

「王子すいません」

無意識に王子の左手を握っていたのだ。

王子と私は立ち上がって。

ドアの前に立ち。

電車を降りた。

「あのね、カッチャン」

「はい?」

「酔っ払ってるから仕方ないかもしれないけど…」

王子のサラサラな前髪がなびく。

大きな目でこっちを見て言った。

「そういうことは、好きな人にしないと駄目だよ」

スキナヒトニシナイトダメダヨ。

「あ…、すいません」

頭を下げる。

恥ずかしかった。と、同時に。

泣きそうになった。
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