距離感
マックかい!

と突っ込んだが、それには理由があるようで。

「せっかく、街に出たんだからさ。それに、こういうジャンキーなもん普段食べられないんだよ」

弟は、そう言ってビッグマックにかぶりついた。

伯父夫婦は、健康志向なようで。野菜中心の食生活だそうだ。

脂っこいものを食べることがないため、私が来たことを口実に欲望が爆発している。

マックでハンバーガーを3つほど食べ終えると。

「ちょっと、男一人じゃ入りにくいところがあるんだよね」

と、言って。店内には、ほぼ女性しかいないカフェに入った。

そこで、弟はイチゴのパフェを頼んだ。

「あー、美味しい。幸せだなぁ」

弟は本当に美味しそうに食べる。

見ていたら、こっちまで幸せそうになる。

「あれ、でもあんた。甘いものそんなに得意じゃなかったよね?」

「農業始めてから、味覚が変わったんだと思う」

私はチーズケーキとホットのコーヒーを頼んだ。

コーヒーを一口、飲む。

店内は淡いオレンジ色の光で、少し暗い。

店内を見渡すと、女の子が好きそうな小物で溢れていて。

確かに男一人じゃ、あんまり入りにくいのかも。

「姉ちゃんさ、すっきりしたよな」

「え?」

弟はパフェを食べ終えて。

私を見た。

「元気そうで良かった。前は人形だったもんな」

「何、人形って」

「えー。感情のない人形だったじゃん。それがいつのまにか廃人になってさ」

「…廃人かぁ。前、いつ会ったっけ?」

「あの人と俺ら家族が顔合わせした時かな。あ、でもその後。心配になって姉ちゃんに会いにいったの覚えてる?」

「あの時の記憶、曖昧なんだよね」

コーヒーを飲んだ。

弟と会った覚えがない。

「本当に廃人だと思った。多分、姉ちゃん死ぬんじゃないかって思った」

「そう…。そんなに酷かったんだ」

思い出したくない。

「もともと感情あんまり表に出さないから人形だと思ってたけど。それが廃人になって。今は人間らしさがあるっていうか。すっきりしてる」

弟の言うことは、滅茶苦茶だなと思ったけど。

変わったことが嬉しいと思った。

「いい人いるの?」

弟が真顔で言うので。むせそうになった。

「え、それを訊くのかい?」

「俺は心配してるんだよ。そう見えないかもしれないけど」

「…まぁ。いるかな。片想いだけど」

小さい声で言うと。

しばらくの間、弟は黙って。

「姉ちゃんなら上手くいくよ」

と、励ましてくれた。

「家、帰ったらさ。姉ちゃんにお願い事があるんだけど」

「えー、何?」

弟はニコニコしながら、

「掃除手伝ってくれないかな?」

「…そう言うんだろうなと思ったよ」

弟の考えそうなことはいくらでも予想できる気がする。
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