距離感
私と王子がペアになって仕事をしているというのは。
周りから聴かされていたみたいだけど。
要さんが私に対して、何か言ってくることはなかった。
ただ、お互い近寄らないようにはしていた。
極力、喋らないようにはしていた。
私と要さんは一定の距離をおいていた。
周りも察してくれていたのは肌で感じていた。
「はい、あげるよ。勝又さん」
お昼休み。
一人でパンを食べていたら。
急に要さんに話しかけられたので、むせそうになった。
周りにいたオバチャンや香川さんも「どうしたの?」という表情でいっせいにこっちを見た。
机の上に手作りのチョコマフィンが置かれた。
「あ、ありがとうございます」
同い年だけど、敬語なのは。
要さんのほうが先輩だからだ。
要さんは会議室でご飯を食べている親しい人にマフィンを配り始めた。
「ありがとう」
「手作り? ありがとう」
「おいしそうだね」
と皆が要さんにお礼を述べる。
流石に、貰ったのだから。
自分もあげなくてはいけないよな。
と、思って。
立ち上がって。
「要さん、良かったら食べて」
と言ってチョコチップクッキーを渡した。
「ああ、あんがと」
次の瞬間だった。
いきなり、要さんはラッピングをほどいた。
「ん?」
と思うと同時に。
目の前で、チョコチップクッキーをパクリと一口食べた。
(え、目の前で食べるの?)
もぐもぐ。
要さんはチョコチップクッキーを咀嚼して。
急に「うぇっ」と言った。
「何このクッキー、まぢでクソまずいんですけど」
「はい?」
まるで、異物を口に入れたかのような表情を要さんはすると。
ずんずんと歩いて。
会議室の端に置いてある燃えるゴミと書かれたゴミ箱にチョコチップクッキーを袋ごと捨てた。
「香川さん、お水欲しい~」
もう一度、要さんは「うぇー」と言って自分が座っていた席に戻って。
持参した水筒を手に取ってゴクゴクと飲み干した。
一連の要さんの動作に会議室にいた十数名全員は無言になった。
「こんなまずいもん、よくプレゼントしようって思ったよね?」
相変わらず、青白い顔で吐き捨てるように要さんは言った。
私は、数秒動けないでいたけど。
我に返って、ゴミ箱に向かって歩いて行って。
要さんが捨てたチョコチップクッキーを取り出して。
「食べ物は粗末にしちゃいけないんですよ」
と、要さんに言って。
自分の荷物を持って席を立った。
周りから聴かされていたみたいだけど。
要さんが私に対して、何か言ってくることはなかった。
ただ、お互い近寄らないようにはしていた。
極力、喋らないようにはしていた。
私と要さんは一定の距離をおいていた。
周りも察してくれていたのは肌で感じていた。
「はい、あげるよ。勝又さん」
お昼休み。
一人でパンを食べていたら。
急に要さんに話しかけられたので、むせそうになった。
周りにいたオバチャンや香川さんも「どうしたの?」という表情でいっせいにこっちを見た。
机の上に手作りのチョコマフィンが置かれた。
「あ、ありがとうございます」
同い年だけど、敬語なのは。
要さんのほうが先輩だからだ。
要さんは会議室でご飯を食べている親しい人にマフィンを配り始めた。
「ありがとう」
「手作り? ありがとう」
「おいしそうだね」
と皆が要さんにお礼を述べる。
流石に、貰ったのだから。
自分もあげなくてはいけないよな。
と、思って。
立ち上がって。
「要さん、良かったら食べて」
と言ってチョコチップクッキーを渡した。
「ああ、あんがと」
次の瞬間だった。
いきなり、要さんはラッピングをほどいた。
「ん?」
と思うと同時に。
目の前で、チョコチップクッキーをパクリと一口食べた。
(え、目の前で食べるの?)
もぐもぐ。
要さんはチョコチップクッキーを咀嚼して。
急に「うぇっ」と言った。
「何このクッキー、まぢでクソまずいんですけど」
「はい?」
まるで、異物を口に入れたかのような表情を要さんはすると。
ずんずんと歩いて。
会議室の端に置いてある燃えるゴミと書かれたゴミ箱にチョコチップクッキーを袋ごと捨てた。
「香川さん、お水欲しい~」
もう一度、要さんは「うぇー」と言って自分が座っていた席に戻って。
持参した水筒を手に取ってゴクゴクと飲み干した。
一連の要さんの動作に会議室にいた十数名全員は無言になった。
「こんなまずいもん、よくプレゼントしようって思ったよね?」
相変わらず、青白い顔で吐き捨てるように要さんは言った。
私は、数秒動けないでいたけど。
我に返って、ゴミ箱に向かって歩いて行って。
要さんが捨てたチョコチップクッキーを取り出して。
「食べ物は粗末にしちゃいけないんですよ」
と、要さんに言って。
自分の荷物を持って席を立った。