距離感
同い年の人間がすることじゃないだろっ。

たんっ! と、いつもより強めにEnterキーを押す。

王子にあげる予定だったのだから、味見はしたし。自分でも美味しく出来たなと思った。

でも、お陰でみんなに渡すことが出来なくなってしまった。

早く帰りたいって思った。

ここから逃げ出したい。

そう思っていると、(かなめ)さんのほうが病院へ行くというので早退した。

あの後、香川さんが来て「ごめんなさいね、要ちゃん今、気が立っているのよ」というフォローを受けたけど。

そんなの、どうだっていい。

定時になると、逃げるように会社を出て。

電車に乗って自宅の最寄り駅に着くと。

駅の側にあるスーパーへ行った。

こういうものは、美味しいものを作って食べて癒されたい。

カゴを持って、何を作ろうか野菜を物色していると。

急にまばゆいオーラが近づいてくるのがわかった。

最初は、テレビの撮影? と思ったけど。

目の前に立っている女優ばりの美人がこっちを見て。

目が合って、思わず「あ・・・」と声が漏れた。

「あら? 確かシンと同じ会社の…」

王子のお母さんだ。

家で会ったときより綺麗で女優ぽく見えるのは、身なりをばっちりと整えているからだろうか。

「あ、勝又柚月です!」

「そうそう! カツ子ちゃん!」

王子の天然って、もしやお母さんに似たのだろうかと思った。

「お買い物?」

「あ、はい。夕飯の買い出しで」

「そう。ここ、安いわよね」

王子のお母さんは野菜を眺める。

「ねえ、カツ子ちゃん。甘くないケーキって作れるかしら?」
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