距離感
久しぶりに、ヤツの夢を見た。

武郎(たけお)が出てきた。

どうして、今出てくるのだろう?

夢の中で、私は、これは夢だってすぐにわかった。

場面が次々と変わる。

出逢ったのは、高校生の頃。

クラスは違ったけど、同じバスケ部だった。

タケオは、何度かうちの店に来たことがあるらしい。

何度か話すうちに仲良くなって、そして。高2の時、タケオから告白してきて。

付き合うことになった。

当時の私は、進路に迷っていた。

それまでは、高校を出たら調理師専門学校に行くと決めていたのに。

兄貴のヤローが実家を継ぐと言ったせいで。

将来、何をしたいのかわからなくなっていたのだ。

毎日、タケオに愚痴をこぼしていたら。

タケオは、はっきりと言った。

「家を継げないからって、どうして料理人になる夢を諦めなきゃいけないの?」

私はビックリした。

「柚月が自分で店を作って、お兄さんのライバル店になれば良いのでは?」

と、言って笑った。

「料理作るの好きなんだろ? じゃあ、料理人になるのに迷いはないだろ」

はっきりと言い切った。

タケオの言葉は、とにかく真っ直ぐで。

私の胸に刺さった。

うじうじ悩んでいた自分が馬鹿らしいと思った。

タケオは高校を卒業したら、東京の大学へ行って。大手に就職してお金持ちになるっていう。

何ともざっくりとした夢を持っていた。

「一緒に東京へ行こう」

私は迷わず、タケオの言葉にうなずいた。
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