距離感
何も考えずに、言ってしまった。


王子は足を止めた。

「え?」と王子が声を漏らす。

言い終えて、しまったと思った。

けど、もう言ってしまったので。どうしようもできない。

「あの…、何でもないです!」

と、言うのと同時に。

王子が右手を差し出した。

「どうぞ」

寝ぼけているのか、本当に馬鹿なのか…。

予想外の反応に、「え…」と驚いてしまう。

が、すぐに私は王子の手を握った。

王子は無言で歩き出した。

心の中で何度もゴメンナサイと思った。

まさか、叶えてくれるとは思わなかった。

「不安なんです。最近…」

言い訳を色々と考えてるけど。

上手く言葉に出てこない。

「カッチャン、一人暮らし初めてなんでしょ? そりゃ、色々不安が出てくるよ」

「なんか…上手く言えないんですけど色々…辛いんですよ」

色々というか、恋愛に生き詰まってる。

だんて、言えない。

王子。

覚えていないでしょうけど。

私は今、王子に言われた通り。

好きな人と手を繋いでるよ。

貴方の優しさを利用しました。

私は悪者です。

でも、いいんです。

どうせ、今だけの思い出だから。

「カッチャンはさ、一人で抱え込む癖があると思うよ」

「そうですかね…」

「もっと、周りを頼ったほうがいいよ」

同情だってことはわかってる。

手を繋いでくれたのは。

でも、嬉しいのだ。

思い出に残したいんだ。

「王子」

「なに?」

もうすぐコンビニに着いてしまう。

「王子の手、ねちょねちょしてます」

「…せめて、しっとりしていると言って」

王子のぬくもりが。

ずっと自分の手に残ればいいのに・・・
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