距離感
王子と出逢って、早一年。

ついに、この日が来た。

いつも通り仕事をして。

定時で仕事を終えて。

エントランスで待ち合わせをして。

王子と帰る。

待ち合せをすっぽかされたら、どうしよう。とか、

(かなめ)さんに邪魔されたらどうしよう。とか、

色々と不安はあったけど。

ちゃんと王子は一人で現れたので、安心した。

「今日はさー、仕事でね・・・」

王子が今日あった仕事の話をしてくれているけど。

全然、頭に入ってこない。

手に持ったカバンと、紙袋がずっしりと重い。

適当に相槌を打ちながら。

逃げ出したいよーという思いになった。

何で、イケメンと帰ってるんだ私は!

という、よくわからない思考回路にまで至る。

どうしよう。

どうしよう。

と、思っているうちに最寄り駅に着く。

「それで、カッチャン。用っていうのは?」

「あの、ついてきてください。すぐそこなんで」

指をさして、足早に歩き出す。

道端に梅の花が咲いている。

緊張で歩くのが早くなって、一人ずんずん進んでいるのに気づいて。

歩くのをゆっくりにする。

まともに王子の顔を見ることができない。

「ここです」

着いたのは、家からほどよく近い公園だった。
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