距離感
その日は、朝から憂鬱な気持ちで仕事をこなした。

残業をして時計は20時を回ったところだ。

「あーぁ」とため息をついてエレベーターを出てエントランスでしばし待つ。

もう、帰るだけだというのに、カップルと一緒に帰るなんて・・・。

どう考えても、私は(かなめ)さんを好きになれない。

うだうだ、悩んでいると、エレベーターから王子が降りてきた。

何故か一人で。

思わず「え?」と声に漏らす。

「お待たせ―。帰ろうか」

「あれ、要さんは?」

もう一度、エレベーターのほうに目を向ける。

が、人の気配はない。

「あ、要ちゃん。要ちゃんはねー、残業しない主義なんだって。だから帰ろう」

「2人きりですか!?」

ビックリするのもそこそこ、王子は勝手に歩き出した。

この人の考えていることが、わからない。

大丈夫なのかな。彼女さんいるのに2人で帰るとか。
< 9 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop