嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
そして、あっという間に放課後になった。


オレは白鷺に体育館に来てほしいとラインを送った。


白鷺は約束の時間に遅れること、5分。


汗だくの白鷺はオレに突進してきた。



「おい、遅刻だぞ」


「許して下さい!こと先輩を助けていただけなので」


「は?」



星名に何かあったのか?


オレは白鷺の言葉を待った。


これだけ汗だくで息が上がっているということは大事件があったはずだ。


一体、何があったのだろう?



「こと先輩...、靴が無くなったと言って困ってて。おれも一緒に探して、なんとか見つかったんすけど...水を張ったバケツの中にあって...」


「それって...」


「絶対、嫌がらせっすよ!こと先輩がミスコンで優勝するのを妨害しようとしてるんっす!...俺、そんなことしたやつ、許せません!こと先輩のためにも必ず見つけます、犯人を!」



いよいよ、そう来たか...と思った。


たしか、去年もあったんだ。


噂によると、2年が1年の出場者の衣装を隠したり、切り割いてみたりってことがあったらしい。


何事もなかったかのように当日を迎え、無事終演したが、まさか今年も...とは。


星名、大丈夫か。


あいつのことだから、ポジティブシンキングで乗り切るだろうが、本番までまだ1ヶ月ある。


これからも続くはずだ、きっと。


厳重警戒だな。


白鷺だけに責任を負わせるわけにはいかない。


オレも友だちとして星名を助けなければ。



完全に星名の1件に心を奪われていた時、百合野がオレの目の前を通った。



「さっきはどうもです!今日は見学、よろしくお願いします!」



まさか、


いや、そのまさかだ。


夏が終わるというのに、汗が背中をたらーっと流れた。



「はいはーい!じゃあ、中に入って待っててね!きっと皆喜ぶよ!」


「はいっ!ガッツリ、ファンをゲットさせていただきまっす!」



白鷺が中に入って行ったのを見届けると、百合野はオレの腕をがっしり掴んで中に聞こえないところまで移動させられた。



「波琉、ありがとね。あたしと未悠くんをくっつけようとしてくれたんでしょ?」



オレは頷いた。


こうなってしまった今、百合野にかける言葉も見つからない。



「さっきね、ことちゃんと昇降口まで一緒に来てことちゃんが帰ろうとしたら、靴が無くなってたんだ。あたしもことちゃんと一緒に探してたんだけどなかなか見つからなくて。そしたら彼がとんできて、見つけてくれたの」


「そっか」



言葉が...


でない。


何を言っても正しくない気がして言えない。



「あたし、未悠くんがことちゃんのこと好きだって分かっちゃったんだよね。でも...ことちゃんならいっかって思った。きっと未悠くんを大事にしてくれる」


「百合野...あのさ」


「な~んてね」



百合野は...泣いていた。


昔、一度だけ、この類いの涙を見た。


朱比香に横取りされたんだ、百合野は。


小1からずっと片想いだった相手を一瞬で奪われた。


百合野は物分かりがいいヤツだから、朱比香が本当に欲しかったものは両親からの愛で、その埋め合わせとして男に媚びるのだと知っていた。


だから、百合野は何万歩も譲って仲直りして今に至るが、こんなにも誰にも振り向いてもらえないとなると、オレもどうしたらいいか分からない。



「あたし、いい子じゃないよ。前も言ったけど、すっごく嫉妬深いから、ことちゃんのこと嫌いになりそうだよ!どうしてあたしじゃないのっていっつも思ってる!」



百合野、


お願いだ。


泣かないでくれ。


オレも...辛くなる。



「波琉...」


「何?」



百合野は泣きながら、オレの肩に手を乗せた。



「あんた、いいヤツだよ。あたし、当日までに未悠くんに振り向いてもらえなかったら、波琉に投票するから。だから、せいぜい男を磨いておけよ」


「ああ。頑張る」


「ふ~ん。どうだか」



百合野、負けんなよ。


絶対、幸せ、掴めよ。


オレは、そう心の中で強く強く祈った。



「じゃ、あたしは顔洗って、化粧直して練習行くわ。まだ希望はあるし、最後まで頑張る」


「おう。頑張れよ」


「波琉も色々大変みたいだけど、頑張ってね。あと、ことちゃんに一応連絡しておいて」


「わかった。じゃあ、また」



百合野は泣きながら笑っていた。


チア部として、何があっても笑っていなければならないのだろう。


ある意味、プライド、か。


百合野の姿が見えなくなるまで見送ると、オレは歩き出した。


大切な人の元へ...。
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