嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
自宅に帰ってきたのは10時過ぎだった。


百合野に言われたようにオレは星名に電話をかけた。


疲れて眠っているかもしれない。


でも、電話した。


星名の...声が聞きたかった。



「もしもし」


「ああ、もしもし。青柳くんです」



オレがそう言うと、星名の笑い声が聞こえてきた。



「何笑ってんだよ?!」


「青柳くん、さっき自分のこと、青柳くんと仰いましたよ。どうしてしまったんですか?」



―――ああ、もしもし。青柳くんです。



...バカ。


さいっこうのバカだな、オレは。


つうか、


笑えてくる。



「ハハハ!何いってんだよ、オレ!」


「青柳くん、ナイスボケです!」



近所迷惑も承知で、久しぶりに大声で笑った。


笑って忘れたかった。


疲れを吹き飛ばしたかった。


暫く笑ったあと、先に話し出したのは、星名だった。


「青柳くん、今日もお疲れ様です。真砂さんのところに行かれていたんですよね」


「まあな」


「真砂さん、お元気でしたか?」


「まあ、昨日も会ったし、そんな変わったところなんて無い。いつも通りだ」


オレがそう答えると、星名はふーっとため息をついた。


「何だよ」


「それがダメなんです」


「何がダメなんだよ」


「女性の気持ち、まだまだお分かりでないようで」


そんなこと、星名に言われたくない。


毎回なんかあるとすぐにハグしてきやがって。


オレがどういう気持ちでいるのか、分かってないだろ!


...とは言わなかったが。



「真砂さんは寂しいんですよ。青柳くんに毎日会いたくて会いたくてたまらないんです」


「おいおい、恥ずかしいこと言うなよ」


「だってそうじゃないですか!女性は少しの変化にも気づいてほしいものなんです。見た目とか心とか...言ってみればカノジョさんの全てです」



はあ...。


やっぱり、女って...



「めんどくさ」


「そう思うなら、今すぐに電話を切ります。真砂さんともお別れしてください」


マジかよ。


ったく、オレを振り回すな。



「前言撤回。めんどくさくても、男、やりぬきます」


「では、明日から練習、頑張りましょうね」


「ああ」



そう言ってから数十秒の沈黙。


オレがかけたんだからオレから話し出さないとな。


オレはスマホを強く握り直した。



「星名」


「はい、なんでしょう?」



息を大きく吸ってから、オレは言葉を口にした。



「星名、今日なんかあったみたいだけど、大丈夫だったか?」



星名の声が聞こえない。


オレはもう一度名前を呼んだ。



「星名?」


「わたしなら、大丈夫です。さっきも笑ってたでしょう?」


「そうだけど...」



―――心配なんだよ。


喉元まででかかったが、結局言えなかった。



「わたしなら大丈夫ですので、真砂さんのことをいっぱい心配してあげて下さい。それでは、また、明日。お休みなさい」


「おい、ちょっと待て!」



見るとホーム画面に戻っていた。


かけ直そうと、電話帳で星名を探したが...止めた。


オレは、スマホを見つめていた。


星名の笑い声が聞こえて来そうな気がしたんだ。


しかし、声なんて聞こえない。


なぜ、


なぜ、


なぜ、


オレは今、


こんなにも苦しいんだろう。


どうして、


どうして、


どうして、


今、会いたいと思うのは、


汐泉じゃなくて


星名なんだろう。


窓の隙間から入ってくる風が妙に心地よかった。
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