嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
わたし以外の出場者が先に帰り、わたしは最後の最後まで衣装を選んだ。


わたしが自分自身で選び、皆に喜んでもらえる衣装にしたい。


ただその一心で、ドレスと向き合い続けた。



「ことちゃん、それでいい?」


「はい!」



園田さんに手伝ってもらってドレスに着替える。


わたしもいつか、最愛の人の前で着られる日が来るのかな?



「ことちゃん、似合ってるよ!」


「ありがとうございます」



ドレスを着ただけでこんなに変わるんだな...。


わたしじゃないみたいだ。


大きな鏡を見ながらそう思った。



「じゃあ、すっごく嫌だけどアイツ呼んでくるね」



園田さんは扉の向こうにいる赤星くんを呼んだ。


わたしは彼らに背を向け、次第に暗くなっていく空に目を向けた。


ガラス窓の外に広がる夜空には月が1つ浮かんでいた。


コツコツ...と足音が近付く。



「ことちゃん」



赤星くんがわたしの名前を呼んでくれた。


あの日、あの時、あの場所で呼ばれなかった名前...。


わたしは精一杯笑顔を作って振り向いた。



「―――きれいだ...」


「あったり前じゃない!あんたが食おうとした絶世の美女だよ!今さら何いってんのよ!」



赤星くんは徐々にわたしに近づいてくる。


わたしは両腕を広げた。



「ことちゃん?!」



園田さんの驚きの声が広い部屋に反響する。


飛び込んで下さい。


わたしが...


ちゃんと受け止めますから。



「ことちゃん...さっきはごめん。なんか...その...好きすぎて...止められなくなって。それでその...」


「もう、大丈夫です」


「えっ...」


「わたしに、"襲う"の意味、教えて下さったんですよね?」


「いや、そう言うわけじゃ...」


「何、ぐだぐだ言ってるんですか!わたしがそう思うならそうなんです。だから...早く飛び込んで下さい。わたし、腕、疲れちゃいますよ」


「ことちゃん...」



赤星くんはわたしの腕に優しく飛び込んで来た。


わたしは、思う。


この優しさが色々な人を傷つけ、自分は傷つけられてしまうのだと。


だから、わたしは


せめてわたしくらいは


赤星くんの傷を癒す存在になりたい。


わたしくらいには


甘えてもらいたい。


わたしが宿主樹木で、。


赤星くんは宿り木でいいから。


疲れたらわたしから栄養を奪ってもいい。


いくら休んでもいい。


その代わり、力強く生きてほしい。


自分のことも愛してほしい。


そう強く思う。



「ことちゃん、大好きだよ」
< 32 / 109 >

この作品をシェア

pagetop