嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
その後、園田さんといつも通りに別れ、いつも通りの帰り道をいつも通り帰ってきた。


しかし、


唯一違ったのは、わたしの心だ。


痛い。


ずきずきして痛い。


お父さんの手伝いをしている間も、ずっとずっと痛くて、接客どころでは無かった。


お父さんはそんなわたしを見かね、客足が途絶えると、もう上に上がりなさいと言った。


今日のわたしはわたしじゃない。


悶々とした中、わたしは布団にうずくまり、頭を押さえて考えないようにしていた。


そんな時だった。


枕元にあるスマホが鳴った。


わたしは布団からざばっと脱出し、スマホを取った。


「もしもし」


「ああ、もしもし。青柳くんです」



青柳くん、どうしちゃったの?


わたしは笑いが堪えきれなかった。



「何笑ってんだよ?!」


「青柳くん、さっき自分のこと、青柳くんと仰いましたよ。どうしてしまったんですか?」



この状況で笑わせてくるなんて反則です。


わたしはもうどうすることも出来ず、ただ自分の感情の赴くままに笑っていた。


笑っていれば忘れられる。


笑っていればなんとかなる。


そんな気がしていた。



「ハハハ!何いってんだよ、オレ!」


「青柳くん、ナイスボケです!」



わたしの笑いが伝染したのか、青柳くんも大声で笑っていた。


暫く笑ったあと、先に話を切り出したのは、わたしだった。



「青柳くん、今日もお疲れ様です。真砂さんのところに行かれていたんですよね」


「まあな」


「真砂さん、お元気でしたか?」


「まあ、昨日も会ったし、そんな変わったところなんて無い。いつも通りだ」


わたしはふーっとため息をついた。


前に言ったはずなのに、もう忘れてしまったのでしょうか。


では、再度忠告せねば。



「何だよ」


「それがダメなんです」


「何がダメなんだよ」


「女性の気持ち、まだまだお分かりでないようで」



どうやらダメであることも分からない様子。


こりゃ重症ですな。



「真砂さんは寂しいんですよ。青柳くんに毎日会いたくて会いたくてたまらないんです」


「おいおい、恥ずかしいこと言うなよ」



青柳くん、照れてるぅ。


にっしっし。


このままいじり倒してやる。



「だってそうじゃないですか!女性は少しの変化にも気づいてほしいものなんです。見た目とか心とか...言ってみればカノジョさんの全てです」


はあ...。


という青柳くんの心の声が聞こえた。



「めんどくさ」



そう言うと思ってましたよ。


もう、全てお見通しです。



「そう思うなら、今すぐに電話を切ります。真砂さんともお別れしてください」



青柳くんが焦りだす。


スマホを通してでも伝わってくる。


あぁ、生で見たかったなぁ。


普段クールな青柳くんが焦るなんて貴重だよ。


実にもったいないことをした。



「前言撤回。めんどくさくても、男、やりぬきます」



そう来ましたか。


ならばこちらも覚悟いたします。



「では、明日から練習、頑張りましょうね」


「ああ」



そう言ってから数十秒の沈黙。


その後、青柳くんが深呼吸するのが聞こえた。


わたしは、彼の言葉を待った。



「星名」


「はい、なんでしょう?」



青柳くんが大きく息をすう。


なぜ、こんなにも鮮明に青柳くんの息遣いが聞こえてしまうんだろう。



「星名、今日なんかあったみたいだけど、大丈夫だったか?」



わたしは...答えなかった。


答えたくなかった。



「星名」


「わたしなら、大丈夫です。さっきも笑ってたでしょう?」



嘘を言ってみる。



「そうだけど...」



青柳くんは優しい。


けれど、わたしも含め、女性の心は読めない。


今回はそれでいい。


その性格を大いに利用して大嘘をついてみようと思う。



「わたしなら大丈夫ですので、真砂さんのことをいっぱい心配してあげて下さい。それでは、また、明日。お休みなさい」


「おい、ちょっと待て!」



青柳くん。


言いたいことがあるなら、はっきり言わないとダメですよ。


わたしはあなたに頼ってばかりではいられない。


自分でなんとかしないとならない。


でも...。


なぜ、


なぜ、


なぜ、


わたしは今、


こんなにも苦しいんだろう。


どうして、


どうして、


どうして、


もう一度、声を聞きたいなんて思ってしまうんだろう。


スマホが鳴るのを期待してしまうんだろう。


スマホを握りしめてしまうんだろう。




わたしは窓を開けた。


夜空に浮かぶ三日月が儚げに街を照らしていた。


夜風に心を預け、このどうしようもなくごちゃごちゃした気持ちを整理してほしいと願っていた。
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