嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
オレは自宅に帰ってきてすぐにベッドに横になった。


布団に潜り込んで目を閉じる。


そして、脳裏によぎるのは、汐泉の悪魔とも天使ともとれる、あの笑顔。


思い出そうと努力しなくても浮かんで来てしまう顔もあるのだが。


そして...思う。


汐泉のことを本当に好きだと言えるのだろうか。


オレはオレが分からなくなって電話をかける。


オレのことを1番近くで見てきたやつに...。



「もしもし、百合野?」


「ちょっと、なんでこんな時間に電話かけてくんのよ!別にラインでいいじゃん。あたし、これからお風呂だから早くしてよね」


「ああ、ごめん」



謝罪のあとの言葉が見つからない。


言いたいことがあって電話したはずなのに、上手く言葉に出来ずに戸惑う。


頭が真っ白だ。


明後日のコンテストでもこんなことが起こったら終わりだ。



「あのさ...あたし、投票先、決めた。詳しくは言えないけど、まあ、一応言っとく」


「そっか。分かった」


「んで、波琉は?なんかあったから電話してきたんでしょ?一体なんなの?早くして」



百合野がじれったそうなのが伝わってくる。


壁にぬいぐるみをぶつけて怒りを発散させているのか、鈍い音がスマホの向こうから聞こえてくる。


オレは、それでも言えなかった。


弱っちいヤツだと自分でも思う。


分かってる。


だから余計に辛い。



「波琉」


「ああ」


「あんたさ、電話かける相手、間違ってる」



百合野は断言した。


コイツはオレを甘やかしたり、慰めたりしない。


常に正しい道を選択させてくれる、オレの案内人だ。



「あたしはね、波琉がかけてほしい言葉の1つも言うつもりはこれっぽっちもない。ただ、あんたに勇気を与えることはできる」


「百合野...」


「波琉の心の赴くままに生きなよ。
波琉が波琉らしく生きられるならそれが正解だとあたしは思う。何があったか知らないけど、あたしはあんたの味方で、大切な幼なじみだから。
...それだけは忘れないで」


「ありがとう、百合野」



オレは百合野にお礼を言って電話をかけ直した。


コールが鳴る。


なかなか出ない。


まだ帰っていないのだろうか。


耳元で何度も繰り返されるコールを、オレは不安に押し潰されそうになりながら聞いていた。


不安に負けてなんかいられない。


強くなるんだ。


中途半端な気持ちは捨てるんだ。


―――コールが鳴り止んだ。



「もしもし、オレ」


「波琉くん、どうしたの?」


「さっき、ちゃんと約束しなかったから、今、ここでさせてほしい」



息を吸う。


ふーっと息を吐く。



「オレは必ずグランプリを取る。だから、約束は守るよ」


「うん。全力で応援する。波琉くんが優勝するって信じてる。どんなに強力なライバルがいようが、私は波琉くんを信じるから」



オレは、汐泉の言葉を心の中で何回も反芻させた。


その言葉が消えてなくならないように。



―――――信じてる。



こんなオレを信じてくれる人がいるから、オレは立ち向かえられるんだ。


オレはやってやる、必ず。


自分のため。


そして、


オレを信じてくれる大切な人たちのために。



「汐泉。文化祭終わったらどこに行きたいか考えておいて。この1ヶ月分の思い出を取り返そう」


「分かった。考えておくね。じゃあ、また明後日」


「ああ。お休み」


「お休み」



文化祭はもうすぐそこまで来ている。


オレは再び立ち上がり、気合いを入れ直すべく、顔や体をごしごし洗った。


疲れも焦りも不安も全て洗い流し、オレは生まれ変わった気分でベッドに入った。


明日は良い日になりますように。


そう願って静かに目を閉じた。
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