嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
「ったく、なんでオレが...」
「園田さん、白鷺くん、行ってらっしゃい!」
オレの横で呑気にキューピッド役をやっている女がいる。
グーパーで奇跡的にあの2人がパーを出してくれちゃったお陰で、オレはこの不思議ちゃんを連れて歩くことになった。
オレには目に見えている。
これから起こるであろう光景が嫌でも思い浮かんでしまう。
先発隊が行ってから3分後に出発させられるらしく、オレは早く行かせてくれよと心の中で思いながら、順番を待っていた。
「では、次の方出棺のお時間です」
うわぁ、そういう設定。
オレたちはお化けってわけね。
なら、白い布でもまといましょうかってな話だ。
こんな子供騙しみたいなお化け屋敷なんてな、数秒で抜けてやるわ。
「では、無事に天国へ辿り着けますように...。行ってらっしゃい!」
係りの3年の先輩に手を振られ、星名は相変わらずのマイペースで、手を振り返していた。
オレは、そんなアイツを無視してお先にあの世への扉をくぐった。
オレが照らす光りだけが頼りだ。
想像以上に暗く、真夜中の病院という設定だから、ストレッチャーやらベッドやらが置かれ、生死をさまようゾンビや包帯ぐるぐる巻き野郎らがうろついている。
セットが本格的だし、人間もお化け感を醸し出している。
オレは完全になめていた。
意外に...怖い。
進んではいるが、いつ襲われるか分からない恐怖で身が縮こまり、背筋に冷や汗がたらりと流れる。
そういや、星名は?
アイツ、大丈夫か?
後ろを振り返った...その時。
「わっ!」
「うわっ!!」
オレは尻餅をついてしまった。
尻がビリビリする。
「青柳くん、わたしですよ。わたしに驚くなんて失礼じゃないですか?!」
「バカ!驚いてねえ!お化け共がちっとも襲って来ないから、わざとやってやったんだよ!」
星名は、笑う。
オレの尻餅スタイルを見てお腹を抱えて笑っている。
なんでお化け屋敷で笑えるんだ、コイツは。
絶対、神経やられてる。
もう、この世の人間じゃないのかもな。
残念だ。
この周りにいる奴らと共に、永遠にさよならだ。
天国へ行けるといいな、星名。
「じゃあな、星名」
「何言ってるんですか?...って、後ろ...」
星名がオレの背後を指差す。
いや、指差されなくてもなんとなく気配を感じる。
ちゃんとした人間だ。
これは演技なんだから大丈夫だ。
奴らは演技しているんだぞ。
大丈夫だ。
大丈夫だ。
大丈夫だ、波琉。
勇気を持って振り返ろう。
オレは恐る恐る振り返った。
「んぎゃーーっ!」
アウトだ。
オレは死んだ。
死人と目が合ってしまったんだ。
ああ、死ぬ。
いやいや、死んだんだ。
オレは...死んでしまったんだ。
「青柳くん!」
この声は...。
ああ、救いの声だ。
助けてくれ、星名...。
―――オレは、今日、はっきり分かった。
オレはビビりだ。
超絶ビビりで、妄想したことを口に出して信じ込んでしまう。
いつからこんな不思議な性格になったんだ?
まあ、考えなくてもなんとなく分かる。
恐らく目の前にいるやつのせいだ。
「青柳くん、勝手に行かないで下さい。わたしはちゃんとお化けさんにお別れの挨拶をして来ているんですよ」
「は?」
「あなたは1人じゃないから大丈夫です。強く願えばきっと天国へ行けます。天国では、あなたより先に川を渡った人たちがあなたを待っています。だから、信じて逝ってください。
...とこれは一例ですが、このようにお一人お一人にお伝えしてきたので遅くなりました」
ったく、なんでコイツは、
星名湖杜っつう人間は...
こんなにも純粋で
どうしようもなく面白いんだ?
「分かったよ。ここからは置いていかねえし、演技もしない。本気でお化けと立ち向かう」
「では、参りましょう!」
懐中電灯1本のみで再び歩き出す。
時々、影から物音が聞こえたり、機械の音がピーピー鳴ったりしたが、さほど怖くも面白くもなかった。
1番ビビったのが、なんの変装もしていない星名の襲撃だったとは。
星名湖杜、お化け屋敷の演出を任せたら最強説。
来年に期待したい。
「青柳くん」
終わりが見えてきた辺りで星名が話しかけて来た。
「あの...わたし...実は...」
星名が何か言いかけたその時。
「待ってたぞーーー!!」
「お前たちも地獄に連れていってやる!」
最後のお化けが襲って来た。
これを逃げ切ったら終了だ。
オレは全速力で出口へと駆けた。
はあ、はあ、はあ...。
疲れた...。
ん?
ん?
オレ...。
自分の右手をまじまじと見つめる、
やっべ。
いつの間に...。
オレは、星名の左腕を掴んでいた。
慌ててオレは腕を離した。
「わりぃ。勝手に腕掴んでた」
「いえ。むしろありがとうございました。わたし、どんくさいので、あのままでは逃げ切れませんでした。本当にありがとうございます」
星名は、笑った。
笑った...けれど。
この違和感は...なんだ?
何か、隠してる?
そういや、さっき、なんか言いたがってたよな。
「星名、さっき...」
「おーい、お二人さあん!」
百合野と白鷺がこちらへ向かって走ってくる。
星名はまた笑っていた。
いや、でも、これは嘘だ。
悟られないように芝居をしている。
って、分かったのに、
結局オレは何も出来なかった。
何も聞けなかった。
そのまま別れ、その日はもう、会うことはなかった。
「園田さん、白鷺くん、行ってらっしゃい!」
オレの横で呑気にキューピッド役をやっている女がいる。
グーパーで奇跡的にあの2人がパーを出してくれちゃったお陰で、オレはこの不思議ちゃんを連れて歩くことになった。
オレには目に見えている。
これから起こるであろう光景が嫌でも思い浮かんでしまう。
先発隊が行ってから3分後に出発させられるらしく、オレは早く行かせてくれよと心の中で思いながら、順番を待っていた。
「では、次の方出棺のお時間です」
うわぁ、そういう設定。
オレたちはお化けってわけね。
なら、白い布でもまといましょうかってな話だ。
こんな子供騙しみたいなお化け屋敷なんてな、数秒で抜けてやるわ。
「では、無事に天国へ辿り着けますように...。行ってらっしゃい!」
係りの3年の先輩に手を振られ、星名は相変わらずのマイペースで、手を振り返していた。
オレは、そんなアイツを無視してお先にあの世への扉をくぐった。
オレが照らす光りだけが頼りだ。
想像以上に暗く、真夜中の病院という設定だから、ストレッチャーやらベッドやらが置かれ、生死をさまようゾンビや包帯ぐるぐる巻き野郎らがうろついている。
セットが本格的だし、人間もお化け感を醸し出している。
オレは完全になめていた。
意外に...怖い。
進んではいるが、いつ襲われるか分からない恐怖で身が縮こまり、背筋に冷や汗がたらりと流れる。
そういや、星名は?
アイツ、大丈夫か?
後ろを振り返った...その時。
「わっ!」
「うわっ!!」
オレは尻餅をついてしまった。
尻がビリビリする。
「青柳くん、わたしですよ。わたしに驚くなんて失礼じゃないですか?!」
「バカ!驚いてねえ!お化け共がちっとも襲って来ないから、わざとやってやったんだよ!」
星名は、笑う。
オレの尻餅スタイルを見てお腹を抱えて笑っている。
なんでお化け屋敷で笑えるんだ、コイツは。
絶対、神経やられてる。
もう、この世の人間じゃないのかもな。
残念だ。
この周りにいる奴らと共に、永遠にさよならだ。
天国へ行けるといいな、星名。
「じゃあな、星名」
「何言ってるんですか?...って、後ろ...」
星名がオレの背後を指差す。
いや、指差されなくてもなんとなく気配を感じる。
ちゃんとした人間だ。
これは演技なんだから大丈夫だ。
奴らは演技しているんだぞ。
大丈夫だ。
大丈夫だ。
大丈夫だ、波琉。
勇気を持って振り返ろう。
オレは恐る恐る振り返った。
「んぎゃーーっ!」
アウトだ。
オレは死んだ。
死人と目が合ってしまったんだ。
ああ、死ぬ。
いやいや、死んだんだ。
オレは...死んでしまったんだ。
「青柳くん!」
この声は...。
ああ、救いの声だ。
助けてくれ、星名...。
―――オレは、今日、はっきり分かった。
オレはビビりだ。
超絶ビビりで、妄想したことを口に出して信じ込んでしまう。
いつからこんな不思議な性格になったんだ?
まあ、考えなくてもなんとなく分かる。
恐らく目の前にいるやつのせいだ。
「青柳くん、勝手に行かないで下さい。わたしはちゃんとお化けさんにお別れの挨拶をして来ているんですよ」
「は?」
「あなたは1人じゃないから大丈夫です。強く願えばきっと天国へ行けます。天国では、あなたより先に川を渡った人たちがあなたを待っています。だから、信じて逝ってください。
...とこれは一例ですが、このようにお一人お一人にお伝えしてきたので遅くなりました」
ったく、なんでコイツは、
星名湖杜っつう人間は...
こんなにも純粋で
どうしようもなく面白いんだ?
「分かったよ。ここからは置いていかねえし、演技もしない。本気でお化けと立ち向かう」
「では、参りましょう!」
懐中電灯1本のみで再び歩き出す。
時々、影から物音が聞こえたり、機械の音がピーピー鳴ったりしたが、さほど怖くも面白くもなかった。
1番ビビったのが、なんの変装もしていない星名の襲撃だったとは。
星名湖杜、お化け屋敷の演出を任せたら最強説。
来年に期待したい。
「青柳くん」
終わりが見えてきた辺りで星名が話しかけて来た。
「あの...わたし...実は...」
星名が何か言いかけたその時。
「待ってたぞーーー!!」
「お前たちも地獄に連れていってやる!」
最後のお化けが襲って来た。
これを逃げ切ったら終了だ。
オレは全速力で出口へと駆けた。
はあ、はあ、はあ...。
疲れた...。
ん?
ん?
オレ...。
自分の右手をまじまじと見つめる、
やっべ。
いつの間に...。
オレは、星名の左腕を掴んでいた。
慌ててオレは腕を離した。
「わりぃ。勝手に腕掴んでた」
「いえ。むしろありがとうございました。わたし、どんくさいので、あのままでは逃げ切れませんでした。本当にありがとうございます」
星名は、笑った。
笑った...けれど。
この違和感は...なんだ?
何か、隠してる?
そういや、さっき、なんか言いたがってたよな。
「星名、さっき...」
「おーい、お二人さあん!」
百合野と白鷺がこちらへ向かって走ってくる。
星名はまた笑っていた。
いや、でも、これは嘘だ。
悟られないように芝居をしている。
って、分かったのに、
結局オレは何も出来なかった。
何も聞けなかった。
そのまま別れ、その日はもう、会うことはなかった。