嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
待機部屋である生徒会室。


わたしの姉の一條美湖は、会長の席に座り、くるくると回転していた。


身に纏っているのは、真っ赤なドレス。


ネックレスもイヤリングもティアラも身につけてまるでおとぎ話の中のお姫様のよう。


...そう。


姉は、昔からヒロインだった。


常に皆の中心にいて皆を惹き付けて離さない人だった。


そんな彼女と顔や体格は全くと言っていいほど同じなのに、わたしは愛されなかった。


1番に愛して欲しかった母に。



「前にもいったわよねえ。ミコのこと、"お姉ちゃん"って呼ばないでって。もう忘れたの?」


「忘れていません。すごく鮮明に覚えてます」



姉は、はっはっはと高らかに笑った。


その笑い方...。


悪女役をやるときの母にそっくりだ。



「あんたさ、ドレスはどうしたの?昴に選んでもらったんでしょう、ながーくて濃密な時間をかけて」


「今は着られません。あなたに踏み潰されかねないですから」


「へぇー、そんなこと思ってるんだあ。おっそろしい女」


「どうとでも言ってください」



わたしがそう言うと、姉は机をドンッと叩き、立ち上がった。


コツコツとピンヒールの音が近付く。


わたしの目の前に来ると、両腕の力でわたしを突き倒した。



「ミコがあんたに求めることはただ1つ。
―――昴を返して!」



わたしは、何も言えなかった。


ただ身構えていた。


殴られてもいいように。


蹴られてもいいように。


潰されてもいいように。


しかし、姉は泣くばかりで一向にわたしに危害を加えようとはしなかった。


わたしより高い位置からわたしを見下ろしていた。



「ミコは...ずっとあんたに会いたかった。でも、まさか、こんな形で再会するなんて思ってなかった...」



姉の声をかき消すように、大粒の雨が降っている。


中庭の出店は撤退し、テントが雨に打たれ、段ボールで作った看板が雨でしわしわになっていた。


せっかく書いた文字も見えなくなっている。



「昴は、ミコにとってかけがえのない星のような存在だった。昴がミコを照らしてくれないと、ミコ、不安になるの。明日の仕事、大丈夫かなって。学校の勉強ついて行けるかなって」



お姉ちゃん...。



「だから、絶対に失いたくなかったの。なのに、なんで?どうして?どうして実の妹に取られなきゃならないの?!」


「お姉ちゃん...ごめんなさい。そんなつもり無かったの。本当にごめんなさい」


「謝るのは簡単よね!でも、1度失ったものを取り戻すのは、そう簡単じゃないの」


「分かってます」


「分かってるなら、もう一切、昴に関わらないで!...ミコから昴を離さないで!」



姉の泣き声が響き渡る中、誰かの足音が近付いてきていた。
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