嵐を呼ぶ噂の学園③ 大嵐が吹き荒れる文化祭にようこそです!編
「星名!星名、居るんだろ!星名!」
聞こえてくる声に反応してはならない。
ここで返事をしたら、これから上手くいくであろうことが全て崩れてしまう。
わたしは天を仰いだ。
見えるのは無機質な天井だけ。
少し動く度に舞う砂ぼこりも、用具が放つ、鼻に来る独特の匂いも、全てさよならだ。
「星名!」
名前を呼ばれたかと思うと用具室の換気のために設置されていた窓がパリンと割れ、直後に彼が飛び込んできた。
幸いにも、着地した場所にはサッカーボールがいくつも入った大きなかごがあり、彼は命拾いした。
わたしは朦朧とした意識の中で彼の姿を微かに捉え、ふっと笑みをこぼした。
そして直後に...泣いた。
涙が次々と溢れてきた。
「星名大丈夫か?しっかりしろ!」
わたしは大丈夫だということを分かって欲しくて何度も何度も頷いた。
「誰に何されたんだ?」
わたしは首を横に振った。
言える訳がない。
だって、青柳くんにとって1番大切な人が過ちを犯したのだから。
「そんな訳ねえだろ!誰もいねえんだからはっきり言え!」
言ったら、悲しむのは青柳くんだよ。
青柳くんが泣く姿を、わたしはもう見たくないんだ。
あんなに辛い思いをして、わたしにそれを話したからって理由で責任を感じて助けに来てくれたのだろうけど、わたしは助けられたくない。
わたしは、やっぱり1人で十分なんだ。
誰かを傷付けるくらいなら、いっそ1人でいた方がマシ。
だから、わたしは...自力で出る。
「おい!何やってんだ!」
立てないのなら這いつくばって窓に向かえば良い。
そう思ったのだけれど、失敗した。
どこら中が痛くて力が入らず、這うことも出来ない。
倒れ込むしかなかった。
悔しくて
悔しくて
苦しくて
苦しくて
痛いのに
すごく痛いのに
拳を地面に叩きつけた。
「星名、止めろ!」
「青柳くんこそ、止めて下さい!」
わたしは大声で叫んだ。
狭い用具室の中で響き渡り、微かな余韻がわたしたちを包む。
「止めろって...何を?」
「わたしを助けることです」
「は?何で?オレが自分で決めてやってることだ。指図される理由はない」
「わたしに過去を背負わせたという罪悪感でやっているなら、そんなの...感じなくていいです。わたしは...大丈夫ですから」
わたしがそう言うと、青柳くんは後ろから抱き締めてきた。
ずっと恐怖と寒さで震えていた肩に、少しずつ熱が宿る。
「大丈夫なんかじゃないだろ」
「大丈夫です」
青柳くんは、優しい。
そして、わたしはそんな彼を利用している。
甘えているんだ。
そして、それと同時に誰かを傷付けている。
彼のことを大切に思う人たちを、無意識にわたしは傷付けてしまう。
だから、本当に、本当に、本当に...
辞めなきゃ。
卒業しなきゃ、
青柳くんから。
「星名、言いたくないなら百合野にでもいいからちゃんと言え。とりあえず、温まったら出るぞ」
ごめんなさい、青柳くん。
わたしは誰にも言うつもりはない。
それに、青柳くんとはもう...。
「青柳くん」
「なんだ?」
わたしは、大声で泣き出しそうになるのを必死に堪えて言った。
「わたしの友だち...辞めて下さい」
「何言ってんだよ!勝手なこと言うな!」
「はい...わたしは、自分勝手です。それで他人を巻き込んでは、必ず傷つけてしまいます。だから...」
「そんなの理由じゃない!オレがお前と一緒にいたいって思えば、オレはお前の友だちなんだよ!」
わたしは、もう限界だった。
大声を上げて泣いた。
訳の分からなくなっている頭も、
自分の心も、
泥だらけの身体も、
涙で全て洗い流したいなんて思う。
ダメだと分かっているのに、
止められない。
涙は溢れる。
洪水になるくらいまで泣いていたい。
「星名、オレはお前になんと言われようと友だちを辞めない。お前が何度拒もうと関係ない。これはオレの意思だ」
「でも、それでは不幸になる人がいます。わたしのせいで...不幸になって欲しくないです」
「でもとかなんとか言うな!いつまでもウジウジしてたってしょーがねえだろ!」
でも...と言いかけると、青柳くんの右手で口を塞がれた。
「でも、禁止。仮定の話は聞きたくない」
「青柳くん...」
青柳くんはわたしの身体をそっと解放すると、着ていたジャケットをわたしに掛けてくれた。
その温かさに、また泣き出しそうになる。
涙が枯れるほど泣いたのに、まだ泣けるのはなんでなんだろう。
そんなことを思っていると、青柳くんの親指が目元に触れてそっと涙を掬ってくれた。
「星名、オレはお前に幸せにしてもらってる」
「えっ...」
「こんなこと言うの、顔から火が出るくらい恥ずかしいけど、言わないとわかんねえみたいだから、この際、はっきり言う」
わたしは目をパチパチさせた。
心臓がバクバクいって今にも飛び出しそう。
どうして、
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
このどうしようもない気持ちの正体は...何?
青柳くんの顔を、真っ直ぐに見られないのは、どうして?
「オレは、星名がいなきゃダメなんだ。
オレはお前と出会ってから、ずっと助けられてきた。
星名がいなきゃ、コンテストだって乗り越えられなかった。
星名が毎日毎日練習に付き合ってくれたお陰で、オレは男として成長出来たんだ。
今のオレには、星名湖杜が必要だ。
オレという人間から欠けてはならないピースなんだよ。
だから、お前の幸せはオレの幸せでもある。
お前は自分がいることで不幸になる人がいるって言ったな。
オレはお前がいなきゃ、幸せじゃない。
オレのことを思うなら...友だちを辞めてくれなんて言うな。
オレの幸せはオレが決める。
星名の幸せも星名が選んで決めればいい。
オレはそう思う」
聞こえてくる声に反応してはならない。
ここで返事をしたら、これから上手くいくであろうことが全て崩れてしまう。
わたしは天を仰いだ。
見えるのは無機質な天井だけ。
少し動く度に舞う砂ぼこりも、用具が放つ、鼻に来る独特の匂いも、全てさよならだ。
「星名!」
名前を呼ばれたかと思うと用具室の換気のために設置されていた窓がパリンと割れ、直後に彼が飛び込んできた。
幸いにも、着地した場所にはサッカーボールがいくつも入った大きなかごがあり、彼は命拾いした。
わたしは朦朧とした意識の中で彼の姿を微かに捉え、ふっと笑みをこぼした。
そして直後に...泣いた。
涙が次々と溢れてきた。
「星名大丈夫か?しっかりしろ!」
わたしは大丈夫だということを分かって欲しくて何度も何度も頷いた。
「誰に何されたんだ?」
わたしは首を横に振った。
言える訳がない。
だって、青柳くんにとって1番大切な人が過ちを犯したのだから。
「そんな訳ねえだろ!誰もいねえんだからはっきり言え!」
言ったら、悲しむのは青柳くんだよ。
青柳くんが泣く姿を、わたしはもう見たくないんだ。
あんなに辛い思いをして、わたしにそれを話したからって理由で責任を感じて助けに来てくれたのだろうけど、わたしは助けられたくない。
わたしは、やっぱり1人で十分なんだ。
誰かを傷付けるくらいなら、いっそ1人でいた方がマシ。
だから、わたしは...自力で出る。
「おい!何やってんだ!」
立てないのなら這いつくばって窓に向かえば良い。
そう思ったのだけれど、失敗した。
どこら中が痛くて力が入らず、這うことも出来ない。
倒れ込むしかなかった。
悔しくて
悔しくて
苦しくて
苦しくて
痛いのに
すごく痛いのに
拳を地面に叩きつけた。
「星名、止めろ!」
「青柳くんこそ、止めて下さい!」
わたしは大声で叫んだ。
狭い用具室の中で響き渡り、微かな余韻がわたしたちを包む。
「止めろって...何を?」
「わたしを助けることです」
「は?何で?オレが自分で決めてやってることだ。指図される理由はない」
「わたしに過去を背負わせたという罪悪感でやっているなら、そんなの...感じなくていいです。わたしは...大丈夫ですから」
わたしがそう言うと、青柳くんは後ろから抱き締めてきた。
ずっと恐怖と寒さで震えていた肩に、少しずつ熱が宿る。
「大丈夫なんかじゃないだろ」
「大丈夫です」
青柳くんは、優しい。
そして、わたしはそんな彼を利用している。
甘えているんだ。
そして、それと同時に誰かを傷付けている。
彼のことを大切に思う人たちを、無意識にわたしは傷付けてしまう。
だから、本当に、本当に、本当に...
辞めなきゃ。
卒業しなきゃ、
青柳くんから。
「星名、言いたくないなら百合野にでもいいからちゃんと言え。とりあえず、温まったら出るぞ」
ごめんなさい、青柳くん。
わたしは誰にも言うつもりはない。
それに、青柳くんとはもう...。
「青柳くん」
「なんだ?」
わたしは、大声で泣き出しそうになるのを必死に堪えて言った。
「わたしの友だち...辞めて下さい」
「何言ってんだよ!勝手なこと言うな!」
「はい...わたしは、自分勝手です。それで他人を巻き込んでは、必ず傷つけてしまいます。だから...」
「そんなの理由じゃない!オレがお前と一緒にいたいって思えば、オレはお前の友だちなんだよ!」
わたしは、もう限界だった。
大声を上げて泣いた。
訳の分からなくなっている頭も、
自分の心も、
泥だらけの身体も、
涙で全て洗い流したいなんて思う。
ダメだと分かっているのに、
止められない。
涙は溢れる。
洪水になるくらいまで泣いていたい。
「星名、オレはお前になんと言われようと友だちを辞めない。お前が何度拒もうと関係ない。これはオレの意思だ」
「でも、それでは不幸になる人がいます。わたしのせいで...不幸になって欲しくないです」
「でもとかなんとか言うな!いつまでもウジウジしてたってしょーがねえだろ!」
でも...と言いかけると、青柳くんの右手で口を塞がれた。
「でも、禁止。仮定の話は聞きたくない」
「青柳くん...」
青柳くんはわたしの身体をそっと解放すると、着ていたジャケットをわたしに掛けてくれた。
その温かさに、また泣き出しそうになる。
涙が枯れるほど泣いたのに、まだ泣けるのはなんでなんだろう。
そんなことを思っていると、青柳くんの親指が目元に触れてそっと涙を掬ってくれた。
「星名、オレはお前に幸せにしてもらってる」
「えっ...」
「こんなこと言うの、顔から火が出るくらい恥ずかしいけど、言わないとわかんねえみたいだから、この際、はっきり言う」
わたしは目をパチパチさせた。
心臓がバクバクいって今にも飛び出しそう。
どうして、
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
このどうしようもない気持ちの正体は...何?
青柳くんの顔を、真っ直ぐに見られないのは、どうして?
「オレは、星名がいなきゃダメなんだ。
オレはお前と出会ってから、ずっと助けられてきた。
星名がいなきゃ、コンテストだって乗り越えられなかった。
星名が毎日毎日練習に付き合ってくれたお陰で、オレは男として成長出来たんだ。
今のオレには、星名湖杜が必要だ。
オレという人間から欠けてはならないピースなんだよ。
だから、お前の幸せはオレの幸せでもある。
お前は自分がいることで不幸になる人がいるって言ったな。
オレはお前がいなきゃ、幸せじゃない。
オレのことを思うなら...友だちを辞めてくれなんて言うな。
オレの幸せはオレが決める。
星名の幸せも星名が選んで決めればいい。
オレはそう思う」