【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「野心的な危険人物と思わせようとしたんでしょうか」
「そんなところだろうな。まあそれがどう受け取られたかわからないが、俺はめでたくこのテックに配属された」
「そこまで敵対心を持たれることになった、きっかけは?」
一臣さんは肩をすくめ「さあ」と首をかしげた。
「知らない。というか、そんなものはないんじゃないかな。年やポジションが似通ってたことは影響してるだろうが」
「そんなことくらいで……?」
「対立構造に身を置くのが好きな人間は、一定数いる」
その標的がたまたま一臣さんだった、と。
私までため息が出る。
パン、と明るい音がした。一臣さんが手を打ち鳴らしたのだ。
「憂鬱な話はやめよう。今日はせっかく……」
顔の前で手を合わせたまま、私ににこっと微笑みかける。
「きみとの食事の日なんだから」

一臣さんが選んでくれたのは、小ぎれいな天ぷらのお店だった。
店内に生け簀があり、目の前で引き揚げてさばき、料理してくれる。
生け簀のおかげで席数は極端に少なく、また衝立や植物でうまく仕切られていて、ほかの客が目に入らないような造りになっている。
ハモの天ぷらを食べたとき、私は感動した。
「今まで食べた中で、一番おいしい魚の天ぷらです」
「それはよかった」
「最後にもう一度これを注文することにします。おなかを残しておかないと」
「途中で目移りしないよう、がんばるんだな」
私たちのテーブルは、時代劇のセットみたいな、日本家屋の一部をそのまま持ってきたような壁にくっついている。
壁は私たちの姿がぎりぎり隠れるくらいのサイズで、圧迫感はなく、ほどよくプライベートな空間を作ってくれる。
一臣さんはその壁に軽く寄りかかり、頬杖をついて笑っていた。
ほっとした。久しぶりに、彼の穏やかな笑顔を見た気がする。
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