【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
手入れされていない庭は、芝がはげて砂がまざっている。お父さまの革靴の下で、じゃり、と音がした。
「ですが、それが息子の人生にまで……影響を及ぼしたのだと知ったとき、はじめて心の底から、自分の傲慢な考えを悔やみました」
目を伏せ、「恥じています」とつぶやく。
知性が刻まれた顔に、苦悩の跡がある。これほどの立場にあって、こんなに正直に自分の非を認め、口に出せる人なんているだろうか。
「許してほしいとは申しません。ですが一臣をどうか、私と同じ人間だと思わないでください。あれは亡き妻に似て清い男です。どうか……花恋さん」
「顔を上げてください、お父さま」
身体を折った彼に、私は慌てて駆け寄った。
それから母を振り返る。子どもを見守るような顔はしていなかった。思うようにやりなさい、と言われた気がした。
「……私も母とは別の人間です。父の記憶はありません。母は、父の恨みを私に植えつけることなく育てました。だから私には、あなたを恨む理由がありません」
お父さまは背が高いので、彼がうつむいていても表情が見える。彼の目が動き、私をとらえた。
「そういう母であることを、ぜひ知ってください。それから私のことは……」
私は彼の手をぐっと握った。骨ばった、乾いた手だった。
「一臣さんの人柄を尊敬する同志として、認めていただければと思います」
お父さまの目が見開かれ、それから伏せられる。
私の背後から、母が声をかけた。
「一応夫の仏壇があります。そういうのに興味がなくて、長いこと開けてもいないんですけれど。手を合わせていかれます?」
気安い口調の誘いに、お父さまは「いや……」と口ごもる。
「お気持ちはありがたいのですが、恥ずかしながら、私は妻の位牌にさえ手を合わせる習慣のない男です。こんな私がなにをしても、ただのパフォーマンスに終わるでしょう」
生まじめに語る彼を、母が楽しそうに見ている。
「それよりも、生涯、彼にしたことを忘れないと誓います。一日たりとも心から離しません。……それで勘弁してはいただけませんか」
「私、あなたをけっこう好きですわ、諏訪さん」
「は……」
私は目線で母をたしなめた。
お父さまはすっかりたじろぎ、「それは、どうも」ともごもご言って、「では、失礼」と気の毒になるくらい慌てた様子で帰っていった。
「ですが、それが息子の人生にまで……影響を及ぼしたのだと知ったとき、はじめて心の底から、自分の傲慢な考えを悔やみました」
目を伏せ、「恥じています」とつぶやく。
知性が刻まれた顔に、苦悩の跡がある。これほどの立場にあって、こんなに正直に自分の非を認め、口に出せる人なんているだろうか。
「許してほしいとは申しません。ですが一臣をどうか、私と同じ人間だと思わないでください。あれは亡き妻に似て清い男です。どうか……花恋さん」
「顔を上げてください、お父さま」
身体を折った彼に、私は慌てて駆け寄った。
それから母を振り返る。子どもを見守るような顔はしていなかった。思うようにやりなさい、と言われた気がした。
「……私も母とは別の人間です。父の記憶はありません。母は、父の恨みを私に植えつけることなく育てました。だから私には、あなたを恨む理由がありません」
お父さまは背が高いので、彼がうつむいていても表情が見える。彼の目が動き、私をとらえた。
「そういう母であることを、ぜひ知ってください。それから私のことは……」
私は彼の手をぐっと握った。骨ばった、乾いた手だった。
「一臣さんの人柄を尊敬する同志として、認めていただければと思います」
お父さまの目が見開かれ、それから伏せられる。
私の背後から、母が声をかけた。
「一応夫の仏壇があります。そういうのに興味がなくて、長いこと開けてもいないんですけれど。手を合わせていかれます?」
気安い口調の誘いに、お父さまは「いや……」と口ごもる。
「お気持ちはありがたいのですが、恥ずかしながら、私は妻の位牌にさえ手を合わせる習慣のない男です。こんな私がなにをしても、ただのパフォーマンスに終わるでしょう」
生まじめに語る彼を、母が楽しそうに見ている。
「それよりも、生涯、彼にしたことを忘れないと誓います。一日たりとも心から離しません。……それで勘弁してはいただけませんか」
「私、あなたをけっこう好きですわ、諏訪さん」
「は……」
私は目線で母をたしなめた。
お父さまはすっかりたじろぎ、「それは、どうも」ともごもご言って、「では、失礼」と気の毒になるくらい慌てた様子で帰っていった。