【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
母はくすくすと忍び笑いを漏らしている。
「どんな奥さんだったのかなあ」
「からかったら失礼じゃない」
「でも本音だもの」
けろっと言いきって母屋へ上がる母に、私も続いた。
「ちゃんとした人だね。親としても見習うところがある」
「ああおっしゃってたけど、一臣さんとよく似てると思う。容姿の話じゃなくて」
「似てるよね。ちょっと会っただけでもわかったよ」
キッチンの入口で、母が振り返り、にっこり笑う。
「すてきな人と出会えてよかったね、花恋ちゃん」
私は卑屈な想いなどみじんもない、透きとおった気持ちで「うん」と答えた。

一臣さんに報告しようと思った。
けれどお父さまの決死の行動を、私から知らせてしまっては不躾だろう。お父さまから一臣さんに報告があれば、彼はすぐに私に連絡するはず。
うずうずとそれを待っていたら、週が明けてしまった。
さすがに顔を合わせたら、この話をだまってなんていられない。開口一番に伝えようと、意気揚々と出勤した。
だけどオフィスで待っていたのは、一触即発の空気だった。
まだだれも来ていないフロアの、ガラスエリア。一臣さんと刈宿さんが向かいあって立っている。
ドアが開いていて、会話が聞こえる。
「ようやく具体的になってね。きみの行き先も決めた」
「僕のことなんて放っておいてくださってけっこうなのに。ポジションだけ手に入れて、お暇なんですね」
一臣さんの鋭い嫌みにも、気を悪くする様子すら見せず、刈宿さんは踊るようなしぐさで人差し指をつきつける。
「きみに行ってもらうのは《エンターテイメント》だ」
耳を疑った。モメント・エンターテイメントは、アプリゲームを開発する子会社だ。海外の会社と業務提携していて、本社もそちらにある。
つまり一臣さんに提示されたのは、海外に行くか、日本で本社の言うなりになって働くかの二択。
にい、と刈宿さんのきれいな顔が愉悦にゆがむ。
一臣さんはじっと押し黙り、火花でも出そうな目つきで彼をにらんでいた。


< 109 / 142 >

この作品をシェア

pagetop