【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
頭のてっぺんに、吹きこまれるようなささやき。吐息が熱い。
「だが一点誤解があるようだ。俺はきみをあきらめてなんていない」
「え……」
「これっぽっちも」
そう言うと、彼はまるで自分を鼓舞するように、私のこめかみに勢いよく唇を押しあてた。
こんなところで!とどぎまぎする私をぽいっと解放し、ドアを開ける。
「刈宿さん!」
ちょうどフロアを出ていくところだった刈宿さんが、その声に振り向いた。機嫌よく首をかしげ、「なんだい?」と微笑む。
「先ほど、気になる話がありました。左藤さんが退職できないというのは、どういう意味です?」
「言葉どおりだよ。彼女の辞表は受理しないよう、人事に言ってある」
「あなたにその権限があるとは知らなかった」
「疑り深いなあ!」
刈宿さんが大仰なため息をつき、やれやれと両手を広げた。
「本体の副社長は、グループの人事責任者を兼ねている。彼は僕の味方だ。これで納得したかい?」
一臣さんが口の中で「ふむ」と言ったのが私には聞こえた。
なにか妙だなと感じる。刈宿さんは悦に入っていて、どうやら気づいていない。
「もうひとつ。営業部隊を引き入れたとのことですが、書面での契約は交わしましたか?」
「準備中だよ、ご心配なく」
「最後に。僕のことをそこまで煙たがる理由を、よかったら教えていただけませんか」
「コアプラザは合併当時、僕が温めていたサービスにそっくりなんだ」
あっさり明かされた事情は、拍子抜けするほどわかりやすいものだった。聞いておきながら、一臣さんも「ちゃんと理由があったのか」と小声で感心している。
「企画会議も通してあった。それがきみと、きみと一緒にやってきたサービスで丸ごと上書きされたわけさ」
「まったく知りませんでした」
「見向きもされなくなったからね。おもしろくなくて当然だろ?」
「そうですね。逆恨みですが」
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