【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
質問は続かなかった。いいように流されていたことを、悟ったのだ。
一臣さんは「ありがとう、また後日」と伝え、再び画面をコツ、と叩いた。余裕のある所作で、スマホを上着の内ポケットへ戻す。
「お教えしませんでしたか? 彼らは紹介でしか新規の仕事を受けつけない。紹介元からの連絡なしに交渉しようとするなんて、怪しんでくれと言っているようなものですよ」
「僕をどうするつもりだ」
「あなたと違って、他人に執着しないたちなので。あなたの進退にもさして興味はありません。ただ、物事をあるべき位置に戻すだけです」
さらになにか言い募ろうとした刈宿さんは、途中で口を閉じた。いつもまばゆいばかりの自信に満ちあふれている彼が、くすんで見える。
「浮かれたのは僕のほうだったな」
「さようなら、刈宿さん」
それでも彼らしく、片眉を上げてふんと微笑み、フロアのドアを押し開ける。廊下にいた数名の社員が、飛びのくようにドアのそばから離れた。
気まずい鉢あわせに、沈黙が下りる。
下世話な興味が丸出しになった視線をものともせず、刈宿さんは「おはよう」とにっこり笑いかけ、階下へ続く階段のほうへ歩いていった。
微妙な空気を破ったのは、一臣さんの声だった。
「そうか、もう出社時刻だな。みんな、締め出してすまなかった」
社員たちは夢からさめたように、はっといつもの顔を取り戻す。
「おはようございます」
「おはよう。今日もよろしく」
口々に挨拶の言葉を述べ、オフィスへ入ってくる。
その中に福原さんがいた。
「おはようございます、諏訪さん、左藤さん」
なりゆきで、並んで立って出迎える私たちに一礼し、戸口をくぐる。自席に向かうとき、振り返って私にぐっと親指を立ててみせた。
私もそっと立てて返した。
一臣さんは「ありがとう、また後日」と伝え、再び画面をコツ、と叩いた。余裕のある所作で、スマホを上着の内ポケットへ戻す。
「お教えしませんでしたか? 彼らは紹介でしか新規の仕事を受けつけない。紹介元からの連絡なしに交渉しようとするなんて、怪しんでくれと言っているようなものですよ」
「僕をどうするつもりだ」
「あなたと違って、他人に執着しないたちなので。あなたの進退にもさして興味はありません。ただ、物事をあるべき位置に戻すだけです」
さらになにか言い募ろうとした刈宿さんは、途中で口を閉じた。いつもまばゆいばかりの自信に満ちあふれている彼が、くすんで見える。
「浮かれたのは僕のほうだったな」
「さようなら、刈宿さん」
それでも彼らしく、片眉を上げてふんと微笑み、フロアのドアを押し開ける。廊下にいた数名の社員が、飛びのくようにドアのそばから離れた。
気まずい鉢あわせに、沈黙が下りる。
下世話な興味が丸出しになった視線をものともせず、刈宿さんは「おはよう」とにっこり笑いかけ、階下へ続く階段のほうへ歩いていった。
微妙な空気を破ったのは、一臣さんの声だった。
「そうか、もう出社時刻だな。みんな、締め出してすまなかった」
社員たちは夢からさめたように、はっといつもの顔を取り戻す。
「おはようございます」
「おはよう。今日もよろしく」
口々に挨拶の言葉を述べ、オフィスへ入ってくる。
その中に福原さんがいた。
「おはようございます、諏訪さん、左藤さん」
なりゆきで、並んで立って出迎える私たちに一礼し、戸口をくぐる。自席に向かうとき、振り返って私にぐっと親指を立ててみせた。
私もそっと立てて返した。