【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~

「刈宿さんが軽率な人でよかった……」
ガラスエリアのドアを閉めたとたん、一臣さんが椅子に崩れ落ちた。
泰然として見えて、やはり緊張していたのだ。
私は慌ててプラスチックカップを用意し、新しくいれている時間がないので、自分の保温ボトルからハーブティを注ぎ、彼の前に置いた。
「わりとあっさり引いていきましたが……、大丈夫でしょうか」
「彼にもそれなりに知能がある証拠だ。副社長がついてるなら、この録音なんてその気になれば無効にできる」
だいぶ失礼な言いざまだ。はあっと盛大なため息をつき、「だが」と続ける。
「社内で効力を発揮しなかったとしても、公になれば世論は完全に俺の側につく。その損得をすぐに計算したんだよ」
一臣さんは疲れきった様子で前髪に指をうずめ、カップに手を伸ばした。
「おいしい……」
「お疲れさまでした。今後は、どうするんです?」
「俺はなにも。動くのは向こうだ。どう元どおりにしてみせるのか、お手並み拝見ってとこだな」
「あの、営業部隊の方とは……」
ああ、と彼が背もたれに寄りかかった。カップに口をつけ、「学生時代の同期だ」と教えてくれる。
「そうだったんですか!」
「数少ない友人のひとりだよ。今度紹介しよう」
「ぜひ」
温かいハーブティの効果か、一臣さんの調子が戻ってきた。「よし」と伸びをすると、「今日も働くか」とサラリーマンぽいことを言う。
「ちょっと、雑談をしていいですか」
私は尋ねた。
「うん、もちろん」
彼がおかわりを求めるようにカップをこちらへ差し出す。私は再度注いだ。
「お父さまが、母のところへ謝罪にいらっしゃいました」
「父が……?」
彼が目を見開く。やっぱり知らなかったのだ。
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