【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
玄関でパンプスに足を入れようとした瞬間、リビングのドアが開いた。
長袖のTシャツとスエットパンツというくつろいだ格好の諏訪さんが出てくる。
彼は手の中のスマートフォンを私に見せた。
「これは、なに」
「モメントのチャット画面です」
「そうじゃなくて。なんで同じ家の中にいるのに、メッセージなんて送ったんだ」
苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている理由はなんだろう。やはり直接あいさつをすべきだったか。
「プライベートの時間をお過ごしかと思ったので……」
「過ごしてたよ、でもそれは、ふたりともなんだと思ってた」
「私は……、部屋を見せていただきに来ただけですので」
諏訪さんが私の顔をまじまじ見つめ、はーっと大きな息をつく。
昼間もこんなため息をつかれた。
「引っ越しは再来週の土曜だね。当日のスケジュールは?」
「午前中着の便で、寝具と、家具を少しだけ注文しました。9時にはここに来ているつもりです。諏訪さんは、どうぞお休みになっていてください」
「どうぞお休みにって……」
再び深々とため息だ。彼のため息をこんな立て続けに聞くことは、そうない。
「あの……」
「まあいい、待ってるよ。きみにはいろいろと学んでもらうことがありそうだ」
「本当にそう思います。せいいっぱい努力します」
諏訪さんはもう一度ため息をつきそうな気配を見せたけれど、つかなかった。
その代わり私の肩を、ぽんぽんとゆっくり叩き、そっとドアのほうへ押しやる。
「おやすみ。気をつけて。まあ駅の入り口、目の前だけど」
「おやすみなさい。お邪魔しました」
手を振る諏訪さんに会釈し、私はマンションを辞去した。

引っ越しの日はすぐにやってきた。
前日の夜、私は当座の着替えや本だけをスーツケースに詰めこむべく荷造りをしていた。それ以外のものは必要に応じて取りに帰ってくればいい。
こういうとき、いつも疑問に思う。なぜ毎日代わり映えのしない服を着ているのに、私のクローゼットは洋服でパンパンなんだろう。
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