【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
引出しの中の服のうち、底のほうの半分ほどは最後に着たのがいつだか思い出せず、くっきりした折りじわとともにぺちゃんこになっている。
なのに捨てないばかりでなく、これらこそ引っ越し先に持っていったほうがいいんじゃないかなんて考えがよぎるのはなぜだろう。
おしゃれな人というのは、きっとこういうとき迷わないのだ。着たい服があって、似合う服もわかっていて、着るべき服を選ぶことができる。
私はしばし悩み、引っ越し先に収納スペースがたっぷりあることを理由に、とりあえず季節に合うものは全部持っていくことにした。
それでも大きなスーツケースに収まる程度の量ではあった。出張の際に機内持ちこみ用として使うバッグに雑貨などを入れ、諏訪さんのマンションに向かう。
9時少し前に駅についた。念のため諏訪さんに、もうすぐ行くとメッセージを入れる。すぐ既読になり、【了解】と返事が来た。
起きていた。
【なにか買っていきましょうか】
【じゃあ、俺の朝食を。きみもまだならきみのぶんも。チョイスは任せる。ありがとう】
キッチンになにもないと言っていたから、料理はしないんだろう。
駅の出口の横にコーヒーショップがある。私はそこでホットコーヒーをふたつとサンドイッチを買い、マンションへ向かった。
「本日よりお世話になります」
玄関先で頭を下げた私に、こぎれいなシャツとパンツ姿の諏訪さんが、あきれ声を出す。
「配属のあいさつじゃないんだから」
そして私が靴を脱いでいる間に、「部屋に入れておくよ」とスーツケースを持ち上げた。
「すみません」
「いや、朝食も頼んだし」
「あっ、これどうぞ。コーヒーだけ片方いただきます。では」
私はコーヒーショップの紙袋を彼に渡し、部屋に入ってドアを閉めた。がらんとした部屋。これから続々とものが届く。
本を読みながら30分ほど待ったとき、インターホンが鳴った。この家はリビングにひとつと、廊下にひとつ子機がある。
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