【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
変われるものなら

しん、と室内が静まりかえる。
私は鼻の上でずれた眼鏡を指で押し上げ、手の甲で額の汗をぬぐった。
「……申し訳ありません」
「なにを謝ってるのか、ちょっとわからないが」
「私、こうなんです。昔から好きでたまらないんです。こういう……」
まだ梱包材に包まれたままではあるものの、趣味全開で買ったアイテムたちを手で示す。それらは今ひとつ、これと言えるようなジャンルがない。
「……少女趣味といいますか」
「ロココ……ってわけでもないんだな。ファンシー? ガーリー……?」
「その絶妙な統一感のなさも問題でして。住んでる部屋はひどいものです。お金のない学生時代に、なんとか好きな雰囲気にしようとして、とっちらかったまま」
「今なら金はあるだろ、プロにでも頼んで全部入れ替えればいい」
「そういう思いきりのよさがないから、この人生なわけで……」
これには反論も思いつかなかったのか、諏訪さんも「ああ……」とつぶやく。
いざぶちまけてしまったら、案外落ち着いてきた。私はスーツケースの取っ手をつかみ、戸口へ向かった。
「お世話になりました。一連のお話はなかったことに。後日片づけに参ります」
「待て待て!」
腕を取られて引き戻される。
「いきなりどうした?」
「職場での私を見て、結婚してもいいと思ってくださったんですよね? これは反則といいますか、計算外だったんじゃないですか?」
「そんなに引け目を感じてるのか、自分の趣味に?」
信じがたいと言いたげに、諏訪さんが目を丸くする。
引け目か。まさしくそれだ。
「だって……似合いませんよね?」
彼はなにか言いかけて片手を広げたけれど、あきらめたようにそれを下ろした。
だけどもう一方の手は、私の腕をつかんだままだ。私がその手を見下ろすと、不承不承といった感じに放してくれた。
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